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令和 7年 5月号  257

クロホシフエダイ


似たような仲間が多い魚

筆者はこれまでに、似たような魚を数多く扱い調理してきたけれど、この魚そのものを商品として扱ったことがあるのかどうか確かな記憶はなく、間違いなく言えることは過去にFISH FOOD TIMES でこの魚を採りあげたことはないことである。

この魚の標準和名はクロホシフエダイ、沖縄ではヤマトゥビーとか、トゥビー、スクシビー、鹿児島ではモンツキ、高知県ではクロホシ、クロテンなどと呼ばれているようで、その他にも全国の南西部地域などで様々な名前が呼称されている。クロホシフエダイはフエダイ科フエダイ属に属し、過去にFISH FOOD TIMES において、同じフエダイ科の仲間で採りあげたことがあるのは以下の魚である。

フエダイ科ハマダイ属ハマダイ 平成27年4月号 No.136

 

フエダイ科ヒメダイ属 ヒメダイ 平成30年5月号 No.173

ヒメダイ

フエダイ科アオダイ属アオダイ 令和元年5月号 No.185

アオダイ

 

いっぽう、フエダイ科に名前が良く似たフエフキダイ科に属する魚がいて、FISH FOOD TIMESでは以下のフエフキダイ科の魚を過去に記事として採りあげたことがある。

フエフキダイ科メイチダイ属メイチダイ 平成30年9月号 No.177

メイチダイ

 

フエフキダイ科フエフキダイ属ハマフエフキ 令和6年6月号 No.246

ハマフエフキ

 

クロホシフエダイをフエフキダイ科の2魚種と比較すると、その見た目はフエフキダイ科の魚に近いようにも見えるが、クロホシフエダイはフエダイ科に属している。

フエダイ科の同系統で知られている種類は30種以上もいて、筆者は過去にその内の僅かに3魚種しか記事として採りあげていないけれど、それらに共通しているのはいずれも美味しい魚ということである。そのなかでも特にクロホシフエダイは市場に出回ることが比較的少なく、希少とは言えないまでも多くは流通していないことから、魚市場に入荷すると天然の美味しい白身魚ということもあって、そこそこの高い価格で取り引きされるらしい。


クロホシフエダイの煮付けとムニエル

このように、普通は価格的に安いと言えないクロホシフエダイを、頭部まで全て活用することでコストパフォーマンスを高めることにして、1尾で4アイテムの商品化をすることにした。まずは準備段階として、頭部を残したままの二枚おろし作業である。

クロホシフエダイの頭付き二枚おろし作業工程
1,水をかけ流しながら、ウロコを欠き取る、 5,水をかけ流しながら、道具を使って血合いを除去する。 9,頭部を左手で押さえ、出刃包丁の刃先を左側へ押し込み、頭部を半割りする。
2,エラ膜を切る。 6,魚体の水気を拭き取り、頭部を付けたまま下身の尻ビレ際を山高骨の方へ切り進む。 10,アゴの付け根部分を切り残したら、刃先で押し切りする。
3,腹部の真ん中を切り開き、内臓を除去する。 7,背ビレ際から山高骨まで、中骨の上を切り進む。 11,まだつながったままの尾ビレ際を切り離す。
4,腹腔内の血合い膜に包丁の切っ先で切り口をつける。 8,刃先を尾ビレ近くから頭部に向けて動かし、山高骨の接合部を切り離す。 12,頭部を付けたまま、二枚おろしにした状態。

クロホシフエダイの切身とその料理

上の作業工程画像に示されているように、クロホシフエダイは頭付きのまま二枚おろしにしたのだが、これは骨付きの上身だけを使って、煮魚用とムニエル用の2種類の切身を商品化をするためである。

クロホシフエダイの煮魚とムニエル用切身作業工程
1,頭部を付けたまま二枚おろしにしたクロホシフエダイの上身側。 7,切り開いた穴から刃先を頭部側に向けて動かし、山高骨接合部を切り離す。

2,カマ横に頭部だけを残す形ではなく、頭部側に大きく身を残して、煮付け用の可食部分を多く確保する。

8,まだつながったままの状態の尾ビレ際の部分を切り離す。
3,価値の低い頭部だけではなく、煮魚用切身として通用する形にしたクロホシフエダイ切身。 9,上身の尾部側を二枚おろしにした状態。
4,尾部側は背ビレ際から切り入れ、山高骨まで切り進む。 10,小骨などを切り離して腹部を整形する。
5,尻ビレ際から切り入れ山高骨まで切り進む。 11,尾部の端を切り、形を整える。
6,左手で魚体を押さえ、包丁の切っ先を入れ込むための穴を開ける。 12,尾部側のムニエル用骨なし切身が完成。

 

出来上がったクロホシフエダイの切身を煮魚とムニエルにする。

クロホシフエダイの煮魚作業工程
1,煮立った煮汁に頭部切身を投入する。
2,落とし蓋をして煮付ける。
3,時々煮汁をお玉で回しかけながら仕上げる。
クロホシフエダイの煮魚が完成。

 

次は尾部側の皮付き骨なし切身をムニエルに料理する。

クロホシフエダイのムニエル作業工程
1,尾部側の皮付き骨なし切身に小麦粉をまぶす
2,フライパンにバターを溶かす。
3,フライパンに切身を皮側から入れ、皮の焼き目を確認してから裏返す。
4,皮に程よい色目がついてから反対側の方を焼くと、見た目の良い仕上がりとなる。
ベビーリーフ、プチトマト、レモンなどを添えてクロホシフエダイのムニエルが完成

 

白身のクロホシフエダイは実に上品な味であり、どんな料理にしても美味しくいただける魚だと感じた。脂肪の程度もコテコテの養殖魚とは違って程よく、料理が冷めても美味しくて、バランスの良い天然の白身魚の味だと感じるものがあった。


クロホシフエダイの刺身と鮨

そして次は刺身と鮨である。

クロホシフエダイのにぎり鮨

1,カマ横に少し多目の可食部分をつけて、下身の頭部を切り離す。

5,下身の皮を除去した状態。

2,腹骨を欠き取る。 6,背身の部位が長方形に近い形なるよう、切り込みは腹身の尾側に食い込む形にする。
3,腹骨を除去し、端を切り整える。

7,腹骨を左の姿勢でそぎ造りする。

4,外引き技法で皮を除去する。

8,腹身で5カンの鮨ダネをつくる。

クロホシフエダイのにぎり鮨が腹身で5カン出来上がった。

 

にぎり鮨は下身の腹身だけを使ったので、刺身は残りの背身を使って商品化する。

クロホシフエダイの刺身薄造り
1,背身を右の姿勢で薄造りにする。 4,大根ケンを内側にも丸く盛りつけ、その上に薄造りの刺身を載せていく。
2,大根ケンを丸く半円状に盛り、その上に薄造りにした刺身を載せていく。 5,最後に仕上げとして、キュウリをスライスしてあしらいにする。
3,刺身を盛りつける形は放射状を意識する。 6,キュウリも放射状になるよう形を整える。
クロホシフエダイの薄造り刺身

北の海域でもフエダイ科の魚が増えている

筆者が在住する福岡で、クロホシフエダイという魚を購入できるとは思っていなかった。その魚を日本の南の沖縄で似たような魚を見かけることは珍しくないものの、九州北部の福岡で過去にこの系統の魚を見ることはほぼなかったのである。

ところが、クロホシフエダイを沖縄に注文しなくても福岡でも手に入るようになったのだ。これは海の環境変化が影響しているようであり、ネット上で以下の研究発表資料を見つけたので、論文発表者に敬意を込める意味で、あまり割愛せずにほぼその全文を紹介したい。(なお図表や画像は、他にも掲載されているが、その中の一部だけに留めている)

徳島水研だより 第115号(2023年 11掲載)

近年のフエダイ科、フエフキダイ科の増加について   海洋生産技術担当石川陽子

徳島県の周辺海域では、長期的に海水温の上昇傾向が見られます。また2017年夏以降黒潮大蛇行が続いており、室戸岬で大きく離岸した状態が続いています。 いずれの影響か、あるいはこれらとは全く別の理由によるのか、近年、フエダイ科やフエフキダイ科の魚の水揚げが増えているという情報があります。実際私も水揚げの現場で見かける機会が増えました。 フエダイ科、フエフキダイ科は、その分布域を本県以南に広く持つ、いわゆる「南方系」の魚です。 徳島県内で獲れるフエダイ科の魚には、フエダイ、クロホシフエダイi、ヨコスジフエダイ、ウメイロなどがいます。フエフキダイ科の魚には、メイチダイ、ハマフエフキ、イトフエフキなどがいます。ハマフエフキは沖縄では「タマン」と呼ばれ、沖縄3大魚の1つに数えられることもある魚です。

調査の内容

水産研究課では、調査の一環として、県内の16漁協から水揚げデータを提供していただいています。今回は、それらのデータのうち、播磨灘、紀伊水道、海部沿岸の3海域からそれぞれ標本漁協を選定し、フエダイ科の魚(フエダイ、ウメイロ等)、フエフキダイ科の魚(メイチダイ、ハマフエフキ等)の取扱いの有無、水揚量の推移を調べました。併せて、漁業関係者に聞き取りも実施しました。また、近隣県の状況について、和歌山県水産試験場と高知県水産試験場にお願いして情報をいただきました。

調査の結果1

海域毎の取扱いの有無について 海域毎にフエダイ科、フエフキダイ科の魚の取扱いがあるかどうかをまとめました。水揚げが極希で安い魚である場合、水揚げされないケース、「その他の魚」として個別の水揚げの状況が判らないケースもありますが、フエダイ科、フエフキダイ科の魚はある程度の価格が見込める魚なので、適当なサイズのものが漁獲されれば水揚げされ、水揚げデータに揚がってくると考えられます。

水温上昇の好影響か

フエダイ科、フエフキダイ科は単価が比較的安定して高い魚です。水温上昇は悪影響が話題とされがちですが、これらの魚の水揚げ増加は、漁家所得の向上につながる好材料といえます。まだ認知度の低いフエダイ科、フエフキダイ科の魚ですが、将来は徳島のブランド水産物の一角を占めるようになるかもしれません。  

 

この資料から見えてくるのは、元々南方に棲息していた魚が、海水温の変化によって北方でも漁獲されることが多くなった、ということを数字と図表で示されていることである。つまり、フエダイ科、フエフキダイ科の魚の資源が増えているというよりも、北の海域での漁獲が増えているということである。

この現象は下手をすると一時的なことで終わる可能性もある。なぜなら海水温というのは高くなることがある一方で、今年のように逆に低くなることもあるからだ。2024年から2025年にかけて冬場の日本は例年になく気温が低かったので海水温も低くなっているようで、漁業関係者は「今年は時期が2ヶ月遅れている」と話題になっているのだ。

読者の皆さんはご存じのように、人間などの哺乳動物の多くは恒温動物であり、体温は環境温度の影響では大きく変化しないため、常に安定した活動を高水準で行うことが出来る。いっぽう、魚類の多くは変温動物であり、魚が棲息している環境水温と魚体温はほぼ同じである。 だから変温動物の魚は水温と同程度の体温ということでエネルギー消費をかなり少なくすることが出来ることから、水温によって体温が多少変動しても正常な活動が行える。しかし、環境水温がある一定以上のレベルまで大変化が生じ、体温が大きく変化してしまうと、そのことによって活動が大きく影響されてしまうデメリットを抱えている。 

近年、秋サケの大不漁が話題になっているけれど、秋サケと呼ばれるシロサケは棲息する環境の水温変化に非常に敏感なのである。例えば、仔魚稚魚期の高温側生存水温は22.6℃、斃死となる限界水温が23.8℃、ということである。そして、海で育ち成魚になって秋サケが母なる川に戻ってくる時期になり、秋の遡上期となると、その適正水温は0℃〜20℃の間であり、さらに最適水温は3℃〜12℃とのことである。願わくは北海道や北陸の生まれ育った川及びその近海での理想的水温は「20℃以下、出来れば12℃以下」であることが望ましいようである。

今年は4月後半になっても寒い日が多いと筆者は感じているが、日本の気候環境も昨年とは様変わりしているはずで、例えば天然ブリの卵巣成熟がほぼ二ヶ月遅れになっているように、日本近海の魚たちの動きにも変化が出ていると推測される。今回福岡で手に入れたクロホシフエダイも、来年は沖縄に行かないと購入できないことも有り得るのである。なぜなら、今や地球温暖化という言葉は科学的な立証の観点で根本的な疑問を投げかけられていて、その言葉は気候変動という名称に置き換えられ、逆の意味の地球寒冷化もその言葉の範疇に入るような置換がおこなわれているからである。つまり、地球は必ずしもこの先気温が上昇するばかりではないことも有り得ることを頭に入れておくべきだろう。

日本近海には、クロホシフエダイという美味しい魚に限らず、他にも探せば美味しい天然の魚は色々といるのだ。養殖魚や輸入冷凍魚などに頼りっきりの魚売場に何ら疑問を感じていない とすれば、それは地球温暖化といった世界の常識と呼ばれていることに対して何ら疑問を抱かないことと同じではないだろうか。

読者の皆さん方が関わっている魚小売の環境は鮮度の良い、美味しい天然魚がしっかり品揃えされているだろうか。海の環境変化に伴って扱う天然魚にも変化があるはずである、日本の気候変化にも対応しながら、取り扱う魚にも変化を取り入れ、魅力的な魚売場にしていってほしいものである。


水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している

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更新日時 令和 7年 5月 1日