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令和 6年 10月号  250

ホウライヒメジ


魚小売の現場では、これもオジサン

今年の5月初旬、熊本に所在するスーパーの魚売場では下画像の恒例企画「五島直送市」が開かれていた。筆者はその企画で陳列されていた魚の中から長崎県五島産のオジサンを1尾購入した。この魚売場は筆者が水産指導を開始して11年目となる現指導先の一つであり、水産研修を実施した日に、この魚を少し安くしてもらって購入し翌日家で調理した。

この五島直送市という企画はもう既に10年近くは続いているはずで、実際に長崎県の五島から魚が運ばれてきて、毎週水木に実施されている恒例の企画であり、店はこれによってウィークデイに売上が落ち込まないような底支えしているのだ。五島の漁港から送られてきた様々な種類の魚は、主に対面裸売りコーナーで丸魚のまま販売されるが、仮にすべての丸魚がそこで売れないとしても、それらは刺身や鮨の材料として積極的にどんどん使われるために解体されていくので、仕入れ面で特に負担となることはなく、この魚売場の魅力を高める要素の一つとなっている。

ちなみに、この店の具体的な店舗名は記せないけれど、2024年8月度の水産部門売上高の店内構成比は18.2%を占め、この数値は畜産部門の売上高とほぼ同じレベルである。また魚売場は売上面で店の看板売場として存在しながら、利益についても非常に高いレベルを長期に渡り安定して維持しており、店内で高い貢献度を示している。

上画像にあるように、対面裸売りコーナーではオジサンと品名表示がされていて、筆者自身もオジサンだと思って購入したのが以下の画像の魚である。

この魚に特徴的なアゴ髭が下アゴについていたから、そう思い込んだのである。ところが、この魚はオジサンではなくホウライヒメジという魚であり、スズキ目ヒメジ科ウミヒゴイ属に属している、よく似た魚だというのが後で判明したのである。

正式和名のオジサンは以下の画像である。

オジサンはホウライヒメジと同じくスズキ目ヒメジ科ウミヒゴイ属の魚であるが、比較して分かるようにその姿はとてもよく似ている。このことから、実はどこの魚市場でも普通にどれもがオジサンの名称で流通しているので、全国の魚小売の現場でもやはりオジサンの名称が普通なのである。そして、ややこしいことに以下の画像の魚もいる。

上画像の魚はオキナヒメジという名称であるが、やはり魚市場段階および魚小売の現場での呼び名はオジサンである。オキナヒメジの英名はBlackspot goatfishであり、オジサンはManybar goatfish、そしてホウライヒメジはWhitesaddle goatfishであり、どれもがgoatfish名称が付けられているが、英語のgoatの意味は山羊(ヤギ)であり、アゴ髭の特徴がヤギに喩えられている。

さて、読者の皆さんは1番目の画像のホウライヒメジと3番目のオキナヒメジの違いを直ぐに見分けられるだろうか。オキナヒメジの画像は長崎県水産部ホームページのものだから、背ビレ・腹ビレ・尻ビレなどを無理矢理拡げて写真撮影しているようだけど、もしヒレ類を無理に拡げる等の手を下さず、そのままドンとホウライヒメジの横にこの魚が並べられていたら、どちらがどうなのか区別できるだろうか・・・? 筆者にはその自信がない。

ホウライヒメジとオキナヒメジとの違いは、尾ビレ近くの黒い斑紋が「ホウライヒメジは側線より少し下まで伸びていて、オキナヒメジの斑紋は側線を超えない大きさ」であり、またアゴ髭がオキナヒメジの方が白っぽいので、翁(オキナ)との名称が付けられる謂われとなっているようである。

アゴ髭がヒメジ科の魚の一大特徴であり、その仲間は17種ほど確認されていて、その中に上記した3種が属するウミヒゴイ属の10種がいる。この顎髭のような器官は正式には触鬚(しょくしゅ)と呼ばれ、この器官には神経束が通っていて、その神経の周りには感覚器官の味蕾(みらい)が並んでいる。人間などの高等脊椎動物は口の中に味蕾があるが、ヒメジ科の魚はヒゲに味蕾があり、これをとおして餌の善し悪しを判断したり仲間を識別したりするなど、これはヒメジ科の魚にとって生存に欠かすことのできない重要なセンサーなのである。


カメラが壊れた

ホウライヒメジの旬は晩春から初夏にかけての頃だということであり、このホウライヒメジを手に入れたのは今年5月9日のことだった。だが、なぜ旬の5月に手に入れた魚を10月号の記事として扱うのか、との疑問を持たれる読者の方もいらっしゃるのではないかと思うが、実は撮影用カメラの液晶モニターが壊れてしまったのである。

通常、筆者が包丁で魚を調理している作業を撮影するのは、まな板を見下ろす約2mほどの高さの位置に設置した35ミリフルサイズのミラーレス一眼カメラであり、これに28〜70oズームレンズを取り付け、カメラソフトのタイムラプスを起動させ、10秒から15秒ほどの間隔で自動撮影をしている。

まな板にある魚を調理するにあたり、2mを超えた高さにあるカメラのレンズを適正な位置に画角調整する作業は低い脚立などを使わなければならないが、実際に小さなサイズの窓であるファインダーを高い位置から覗くのは非常に難しく、通常は角度が調整可能なフレキシブル液晶モニターを見ながらレンズの画角調整をしている。

しかし、9月初旬にこのカメラを屋外に持ち出した時、液晶モニターが映像を全く映さなくなってしまったのである。その時は、ファインダーを見ながら撮影をしたが、ファインダーを見ながらの撮影というのは、屋外が素晴らしい晴天で明るすぎるために液晶モニターが見づらいような時には役立つけれど、それ以外の時は液晶モニターの方が断然使いやすいことを改めて知らされたのだった。

この10月下旬に1週間近くこのカメラを持ち出す予定があり、その時の撮影に活躍してもらわなければならないので、とにかく早めに修理に出して早く手元に戻ってくるように動いた。そして修理を受け付けてくれた店の担当者からは、カメラの修理が終わり戻ってくるまで1ヶ月は覚悟してほしいと告げられ、今回は仕方なくパソコンに保存しているこれまで撮りためた手持ちの画像の中から魚を選んで、10月号を記すことにしたのである。

ヒメジ科ウミヒゴイ属のオジサン達は、旬が外れた時期でも問題なく美味しいということなので、それを救いとして以下にホウライヒメジのことを記していきたいと思う。


ホウライヒメジの調理

ホウライヒメジのウロコは比較的大きく、特にしっかりと肌に付着してはいない。このためウロコ取りの道具を使った時に生じる「あらぬ方向へ飛び散るウロコ」を避けるために、筆者が勝手に命名したウロコ取り方法の「親指潜り式」でウロコを除去するのが便利である。

これはブダイ科やベラ科の魚のウロコを取る時に重宝する方法であり、特にブダイの場合はウロコ取り道具を使うとウロコ同士が変につながったままになってスンナリとウロコを除去できないけれど、この親指潜り式ウロコ取りをおこなえば、面白いようにスムーズなウロコ取り作業が行えるのだ。

ホウライヒメジはブダイ科やベラ科ではなくヒメジ科に属するが、筆者はこの魚を触ってみて直ぐに親指潜り式でのウロコ取り方法が向いていると直感し、その方法でおこなったが正解だった。ヒメジ科の他のオジサン達にも適しているかどうかは不明だけれど、少なくともホウライヒメジについては親指潜り式ウロコ取りは適切な方法である。

ホウライヒメジの「親指潜り式ウロコ取り」
1,尾ビレ近くの尾柄部ウロコの下に両手の親指を潜り込ませ、頭部に向けて親指を押し進める。
2,流水をかけ流しながら、尾柄部側から頭部側へ親指をウロコの下全体に潜り込ませ、下身側のすべてのウロコを除去する。
3,上身側も同じ要領で親指を使ってウロコをすべて除去する。
親指潜りの方法でウロコを除去したホウライヒメジ。

 

このホウライヒメジ1尾を使って、刺身、鮨、切身の商品化を想定し、一つずつ作ることにした。先ずは切身であるが、比較的小さなサイズだったので頭部も活用した姿切身をつくることにした。

ホウライヒメジの姿切身作業工程
1,ウロコを除去した後の魚体腹部を切り開く。 6,尾ビレ近くから頭部側に向けて切り進み、下身を分離する。
2,水をかけ流しながら、エラと内臓を除去する。 7,頭部は半割にせず、そのままの状態で裏返す。
3,魚体の水気を拭き取り、下身側の頭部と胴体の間を背骨の寸前まで切り入れる。 8,骨付きの半身を、斜め半分の形に切り離す。
4,頭部は付けたまま、下身側のの尻ビレの際から山高骨の方へ切り開く。 9,背ビレや尻ビレなどを切り離す。
5,下身側の背ビレ際を山高骨まで切り開く。 ホウライヒメジの姿切身が完成。

 

次に、このホウライヒメジの姿切身を煮魚にすることにした。

ホウライヒメジの姿切身煮付け作業工程
1,深さのあるフライパンに入れた煮汁を沸騰させ、そこに切身を入れる。
2,厚みのある頭部の上身側が半煮えにならないよう、お玉を使って煮汁を切身の上から何度もかけながら煮付ける。
3,頭部は厚くて大きく味が付きにくいが、煮汁を上から何度もかけることで、隅々まで美味しく煮付けることが出来た。
ホウライヒメジの姿切身煮付けが完成

 

ホウライヒメジの煮付けは、身が適度に柔らかく、白身で味にクセがなく、とても美味しい魚である。この魚は特に煮魚料理に向いた魚の一つとして数え上げられると感じた。


ホウライヒメジの刺身と鮨

次は刺身と鮨である。

ホウライヒメジの炙り刺身と炙り鮨作業工程
1,下身の腹骨を欠き取る。 5,炙りにした皮の表面を冷やすために、砕氷で冷やし込む。
2,骨抜き道具を使って、すべての血合い骨を引き抜く。 6,炙りにした皮を下にして、左向きの姿勢でそぎ造りにする。
3,下身の皮をバーナーで炙る。 7,頭部側からそぎ造りにした5切れを、炙りにぎり鮨にした。
4,バーナーで炙りにした状態。 8,鮨ダネを確保した残りの部分を使い、炙りそぎ造り刺身が完成。

 

ホウライヒメジは刺身も鮨も美味しい。皮を炙りにしたのだが、例えば赤ムツのように皮下脂肪がたっぷりある魚というのは、炙りをしたとしても柳刃で切る時に皮がめくれてしまう可能性が高く、炙りの良さを充分に味わえないことがあるけれど、ホウライヒメジの場合は皮下脂肪が多すぎないので、柳刃でそぎ造りする際にも皮がめくれることはなく、身にしっかりと残っていた。

また、炙りをおこなっても赤い皮の色は色飛びせずに残っていて、刺身と鮨を食した時の炙りの香ばしさも加わった美味しさはなかなかのものであり、その出来上がりの華やかな見た目も含めて、これは炙りにも向いている魚だと感じた。


ホウライヒメジは「目出度い魚」

ホウライヒメジについて、筆者はここまで記してきたこと以上のことを知らない。何しろこれまでも馴染みがあった魚とは言えず、そもそも筆者はこの魚のことを、この時までオジサンの名称で一括りにして片付けてきた程度の知識しかなかったからである。

ホウライヒメジという魚名も今回の機会をとおして初めて知ったのだから、あまり偉そうな知ったかぶりをすることはご法度なのである。それにしても、知らないついでというのも変なのだが、筆者はホウライヒメジのホウライという名称が気になって仕方がなかった。そこで、何故ホウライなのか少し調べてみたので、時間がある方は以後の文章も読み進めていただきたい。

ホウライは蓬莱と書くとのことだが、筆者は蓬莱の言葉を聞いても、恥ずかしながら肉饅や饅頭のことしかイメージ出来ないレベルの知識しかなかった。

蓬莱とは、古代中国の神仙思想に出てくる仙人が住む仙境のことを意味するらしい。昔、日本において古代中国の神仙思想が伝わり、浦島伝説や竹取物語などの中に不老不死などの神仙思想の影響が見られるとのことである。

仙境というのは海の果てにある島であると考えられ、それは海上や海中に存在するということから、その中に龍宮が存在していて、浦島太郎や海幸彦・山幸彦に出てくる龍宮伝説につながっているようである。

実は本当に奇遇なことなのだが、筆者はほんの直近の9月初旬、龍宮伝説の伝承を持つ神社を訪問したばかりだったのだ。

その神社は上画像の和多都美神社である。長崎県対馬市豊玉町に位置し、本殿の方から海上の方へと一直線に五つの鳥居が続いていて、その内の二つの鳥居は海上にあり、上の画像でも海へと真っ直ぐ鳥居が三つ並んでいるのが確認できる。

神代の昔から続く名社大社の一つである和多都美神社は、海神(わたつみ)とされる豊玉彦尊(とよたまひこのみこと)がこの地に宮殿を造り、これを海宮(わたつみのみや)と名付け、この地を夫姫(おとひめ)と名付けた。当時その宮殿は高さが一町五反(約160m)、広さは八町(900m)四方もあったとされ、海が満潮になると社殿近くまで海水が満ち、その様はまさに龍宮を連想させ、このことが龍宮伝説につながっているとされている。

ある時、この地に失った釣り針を探しに上国より下向してきた彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)がやってきて、3年間この宮に滞在した。豊玉彦尊には一男二女があり、彦火々出見尊はその娘の一人豊玉姫命(とよたまひめのみこと)を娶って妻としたとされ、あの良く知られている海幸彦・山幸彦の伝説はここから生まれたものとされている。

この言い伝えは、和多都美神社の境内にある案内板に記してあったことを筆者が要約している。そしてこの言い伝えに加えて、実は彦火々出見尊は浦島伝説の元となった浦島太郎であるとの説を、この対馬に在住されていて、長年に渡り筆者は親しくさせていただいている人から詳しく説明を受けたのだ。

その方に説明していただいた内容を要約すると、浦島太郎が暮らした桃源郷のような龍宮での3年間は、彦火々出見尊が夫姫に滞在した3年間とまったく同じであり、このことが「龍宮は和多都美神社」だということに結びつくとのことである。

ここまで記してきた内容を少し整理してみると、ホウライヒメジのホウライは蓬莱と書くが、蓬莱は古い中国の神仙思想に出てくる仙人が住む仙境のことを意味する。仙境というのは海の果てにある島であると考えられ、それは海上や海中に存在するということから、浦島太郎や海幸彦・山幸彦に出てくる龍宮伝説につながっている。そして、その龍宮伝説の元となったのが和多都美神社だというのである。

さて、これまでの説明の中では、ホウライヒメジにホウライという名称が付けられるようになった根拠をまだ解明できていないが、実はこのことに関して面白い事実を見つけることが出来たのだ。それは、和歌山県串本町にある潮御岬神社では、ホウライヒメジをメンドリと呼称して、神へのお供え物にするという事実である。

潮御岬神社は、昔から黒潮が最も接近する潮岬にあり、その沖はカツオが郡遊する好漁場であり、漁師達は漁場を一望して見渡す潮御崎神社を共同の守護神として篤い尊崇をしてきたとのことである。 そういう神社にお供えする魚が、カツオではなく何とホウライヒメジなのである。そしてご当地では、その魚名をメンドリという名で呼び習わしているということなのだ。

和歌山県串本町で、ホウライヒメジをメンドリと称するのが何故なのか、筆者はどう考えてみても理解できなかったが、このことを調べていて、もしかすると多少は関係あるかもしれないと思われるものが一つだけ見つかった。

それは、西暦1000年代、中国において宋の時代に、当時随一の文豪とされた蘇軾(そしょく)の手による桃源郷に関する文章がある。それは「もし仙郷であるならば、どうして鶏をつぶして、漁師をもてなしたりするものか?」と言い表したとのことであり、その意味することは「桃源郷は搾取や戦乱のない人間の世界だ」と考えていたとされている。 

この表現の前後の文章がないので、蘇軾(そしょく)が本当は何を言いたかったのか、筆者は正確に読み取ることは出来ない。しかしメンドリとは雌鶏(メンドリ)だと仮定するとしよう。これを蘇軾(そしょく)が表現した「鶏をつぶして、漁師をもてなし・・」に当てはめ、少し大胆に日本風の文章に意訳をしてみると、それは「潮御崎神社の神様にメンドリ(ホウライヒメジ)をお供えし、漁師は福のもてなしを受ける」というように解釈することも出来るのではないだろうか。

この解釈はあまりにも乱暴だろうか・・・。筆者は学者ではないので、この推測は学術論文ではなく気楽なものである。この解釈には無理があり、こじつけに過ぎないと捉えられても仕方ないが、とりあえず自分なりにホウライヒメジの名称に関する疑問はこの形で解決出来たのではないかと感じている。

筆者がこれまでオジサンと呼称して何ら疑問も感じなかったホウライヒメジという魚を記事にしてみると、龍宮伝説や浦島太郎へとつながるとはまったく予想だにしなかったことである。また、こうしてこの魚のことを記事にしててみると、ホウライヒメジは「目出度い魚」なのだということも知ることが出来て、魚に関する知識が一つ加わって嬉しい思いをしている。

それにしても、魚一つであっても疑問を解決する手立てを辿っていくと、予想もしなかった方向へ展開するというのは面白いものである。FISH FOOD TIMES が伝えようとしてきたテーマは「魚を販売するための知恵や工夫」なのだが、今月号のように基本テーマからあらぬ方向へ飛んでしまう現象は、まるで庭木の忌み枝が所構わず枝や葉を伸ばしていくようなものである。

今月号で250号となる FISH FOOD TIMES は、この先どういう内容になっていくのか、筆者自身も皆目見当が付かないけれど、まあ庭木の忌み枝が次々と伸びていくように、勝手気ままに書きたいことを書いていき、そのことで筆者自身は自己満足していくのだろうと見ている。

FISH FOOD TIMESの運営は、別に誰からもお金をもらっているわけではないので気楽なものである。読者の皆さん方が、そんな自由気ままで気楽な姿勢で20年も続けている FISH FOOD TIMES を毎月チョットでも覗いていただくことを楽しみにしながら、これからもこのサイトを当面は継続していきたいものである。


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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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                 更新日時 令和 6年 10月 1日