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平成21年 9月号



ロウニンアジ平造り

コスパ盛り480円)





ロウニンアジとはどんなものか。

見たことも食べたこともない人が、たくさんいるのではないだろうか。





 これが刺身の元の姿で、重量約4kg強。

ロウニンアジとしては、この大きさでもそれほど大きい方ではなく、中にはこの10倍以上のおおきさになるものもあるということだ。

英名ではGiant trevallyであり、釣人の間ではその頭文字のGTで呼ばれ、大型の釣魚として人気があるということである。

このロウニンアジは、スズキ目スズキ亜目アジ科アジ亜科ギンガメアジ属に分類され、一般的には平たい形をしたアジということでヒラアジとも呼ばれている。

なぜロウニン(浪人)という名がつけられているのかというと、いわゆる「群れ」を成さず、単独で悠々と行動する風情が、武士の浪人を彷彿とさせるところからきているということだ。

そのロウニンアジが、風来坊のように悠々と泳ぐ動画が見つかったので紹介しよう。

宮古島ロウニンアジ

沖縄では通称ガーラと呼ばれ、地域名称として正しくはカマジーガーラである。

その沖縄では形が丸っこくて小さめのガチュンと呼ばれるアジがいるが、ガチュンの仲間はたいして脂の乗りが良くなく、本土のように開きにして朝食で食べる食習慣などもないからか、ガチュンの仲間の評価はあまり高いとは言えず、人気もそれほどではない。

ロウニンアジの仲間にはオニヒラアジやカスミアジなど、見た目がそっくりの仲間もいるが、なかでも同じアジ科で一般的によく知られているお馴染みの仲間がいる。

それが以下の写真である。


そう、あの高級魚のシマアジである。

これは天然のものではなく養殖魚の写真。

このシマアジの姿を、天然ロウニンアジの厳めしい姿と比べて見ると、いかにも養殖という飼い慣らされた環境で育ち、そして、何の苦労もなく大事に大事に扱われてきた、よくある「温室育ちの高級なお坊ちゃま」のようなものを想像できるではないか。

振り返って人間の子供は天然のロウニンアジのような、食うか食われるかの弱肉強食の世界に放り込まれて大きく育つのか、それとも養殖シマアジのように、過保護な教育ママゴンのもとで温々と育って、ポッチャリとした闘争心の少ない草食系になるのか、その善し悪しは、人生の結果がその正否を示してくれることだろう。



ところで話を魚のことに戻そう。


これは入荷した時の写真。

木箱に2尾入れても尾ビレは飛び出す始末で、その大きさを想像してもらえると思う。


これを2枚におろした。

  

この魚の解体では、苦い思い出がある。

あまりにも大きく(1尾の重量は14kgは超えていた)

頭を落とす際、出刃包丁で叩き切りかけた時、

その骨があまりにも硬くて、刃こぼれを起こしてしまったのだ。

だから今もガーラの仲間のデカイ奴をおろすのは大嫌いだ。

 



そして次に、三枚におろした。



それから、皮を除去して最後に節取りをした。

ここまでの結果、歩留まり率は42%だった。

厳つい大きな頭が、どれだけ歩留まり率を悪くするのかと恐れていたのだが、意外に歩留まり率は高く、真鯛類よりも歩留まり率は高いと見て良いようだった。

そして、このロウニンアジの原魚の仕入れ価格は430円/kgであるから、

歩留まり原価を計算すると、1,024円/kgとなる。

ざっと見た刺身用ネタの原価は100gで100円というところだろうか。

巻頭写真のロウニンアジの刺身重量は、約180g〜200gの範囲だから、魚だけの純原価は約180円から200円の間くらいということになる。

トレー代とあしらい費用をいくらで計算するかで値入率は変わるけれども、これらを仮に50円と見て、一番高くつく200gの場合、480円で売れば、消費税を含めても値入率を45.3%は確保できる。

もしシマアジで同じ分量を計算すれば、仕入れ原価を1,800円と仮定して、歩留まり率を仮に全く同じ42%だったとして、魚の純原価は858円ということになるので、とても同じような盛り方をすることは、最初から考えることも出来ない。

だからシマアジの場合、こんな切り方とか、こういう量での盛り方はしないはずだ。

ところで、ロウニンアジの刺身の味の方はどうかというと、ほどほどに脂の乗りも良く、なかなか良い味であった。

養殖シマアジのあの脂肪だらけでギトギトした食感に比べると、間違いなく天然の自然な美味しさを堪能できると感じた。



今の日本は「魚離れ」と言われ続けて久しくなるが、養殖シマアジを含めて、同じような養殖真鯛、養殖ブリ、養殖カンパチなど、養殖魚や冷凍解凍魚に頼らざるを得ない状況となっている。

しかし今の魚売場の作業現場では、合理化や効率化が最優先され、いつもこれらの同じような魚を、マニュアルに沿って、ロボットのように、いつも繰り返し製造しているだけ、と言っても過言ではない。

お客様だっていつも同じ魚しかないのでは、好い加減に飽きがきても不思議ではない。

このようなルーティンワーク化というのが、「魚離れの一因」になっているといることも考えられるのではないだろうか。

巻頭写真のロウニンアジのように、200g近くのボリュームがあって、しかも500円のワンコイン以内で買える経済性が実現できれば、お客様が買う予定がなかったのに買ってしまう、という衝動買いだって誘導できないことはないはずである。

こういう衝動買いを誘うようなコストパフォーマンスを実現した刺身を、略して「コスパ刺身」と称している。

こんなに量はいらないというコスパ刺身の否定的側面を承知の上で、いっぽうでは「これはお買い得感がある、大歓迎!」と感じてもらえる客層も、この世の中には間違いなく存在するはずなのだから、コスパ刺身の存在意義は間違いなくあるのである。

海の中にはロウニンアジのような、魚を販売している人自身がまだ一度も見たことのなく、

ほとんど活用されていない未利用魚がウヨウヨしている。

多獲性魚種を大量に販売することだけが魚屋ではないはずだ。

魚を販売する当事者自身の視点や発想を変えていかなければ、大袈裟に言えば「魚食大国日本に未来はない」と思う。



更新日時 2009年 9月 1日 (火)


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