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平成20年 3月号



左巻き平造り




この刺身は、左巻きという変わった名前の魚である。

正式名称は「鷹の羽鯛」


この紋様が鷹の羽の紋様に似ているから、このような名前を付けられたらしい。

下の本物の鷹の写真の、羽の紋様と比べると、確かに、言い得ていると納得するではないか。


よく見てみると、黄色くて丸い眼球も似ていないでもない。

鷹の羽鯛とは良く言ったものである。

しかし、このような立派な正式名称がありながら、何故「左巻き」などと、日本人があまり喜ばない別名があるのだろうか。

左巻きの魚がいれば、右巻きもいるというもので、筆者は現認した事がないけれども、海の中にいる事はいるらしい。

それでは、なぜ左巻きなのか。

ある資料の写真で確認した右巻きは、同じような方向に縞が入っていて、縞模様の方向の違いからきた名称でもないようだ。

ようするに正式名称などとは縁のない時代に、単にからかい半分、冗談半分でつけらた名前かもしれない。

ということで、今回は筆者も遊び半分に、あることを試してみた。

左巻きの旬は冬場だから、2月という一番美味しい時期にもかかわらず、約500グラムの大きさでも、仕入原価は1尾200円と、とんでもない安値だったので、儲けはどんな事をしても出せると考えた。

その試してみた事とは、あるところで現認した行動がとても印象的なものだったので、自分もやってみたらどうなるのかを実験をしてみたのだ。


まず周囲の背ビレ、尻ビレ、腹ビレ、そして胸ビレの横と、「襷おろし」要領で、ちょうど刺身用に三枚おろしをする時の、包丁線に沿ったウロコだけを除去した。

その大きめのウロコは非常に頑固なので、力ずくの作業である。

周囲の鱗だけをとって、真ん中の大部分のウロコは残しているので、その分、体力的には省力化できるのが味噌である。


カチッとした白身で、三枚におろすのは簡単である。

しかし、そこからが問題である。



皮すきをした結果はご覧の通りである。

一番下は皮すきをした後の皮であり、上の二つは皮を除去した身であるが、見事に(?)失敗をしている。

なぜ、そのような失敗例をわざわざ掲載するのかという事である。

ここでは鱗をとる作業は「面倒だから・・・」と、鱗取り作業の一部を省いて皮すきをしていたので、この作業方法が気になった筆者も同じようにやってみたのだ。

皮はどうせ食用にもならないのだからという理由で、鱗を取る作業の一部を省いて皮と一緒に捨ててしまえという発想である。

しかし、本当は魚の「皮が美味しい」のだ。



これは真鯛の鱗をとって皮すきをした身の部分である。

皮下の身の紋様が明瞭に出ているので、刺身に商品化した時に、紋様の美しさを活かした商品化が可能だ。


そして、これはその真鯛の皮で拵えた、酒の肴「鯛の皮ボイル」

ポン酢とネギと紅葉おろしを和えて食すれば、酒の肴のもう一品は、現在捨てられているもので出来上がるのだ。

魚の皮は、こうやって美味しく食べる事が出来るだけではなく、栄養面でも優れたものがある事はここで今更言うまでもないだろう。

鱗付きのままで皮すきをするということは、一見合理的な発想のようであるが、いかにも「手抜きが得意な怠け者」が考えそうなことだ。

筆者は、左巻きのように頑固な鱗の魚だけではなく、真鯛でもこのやり方を行っているのを見た事がある。

結果としては、左巻きの写真のように酷い結果にはならなくても、やはり上の真鯛のように皮すき後の写真が自然な感じはなく、白さの目立つ斑点のようなものが幾つも残っていた。

身と皮の間をすり抜ける包丁は、本来真っすぐで平らな俎板の上に接している事が条件で、繊細な動きをしながら身と皮を切り離していく。

鱗を付けたままの皮があるということは、凸凹した鱗の影響を受けながら包丁を進めなければならないのだから、上手に仕上げるのは難しいはずである。

今回筆者の意図するところは、こういう間違った合理化手法を推奨するためなんかではない、ということは分ってもらえると思う。

冬場の左巻きは実に美味しい魚なのである。

しかし、歯で噛み切れないような醜い皮目の残滓を残せば、その美味しさは半減することになる。

「合理性」と「怠惰」は非なるものである。

自分が作業面で楽をしたいがために、お客様の満足度を歪めてしまうというのは、本末転倒である。

こんなことを続けていたら、結局のところお客様を逃がしてしまう事になる。

思い当たる節のある人のために、警鐘を鳴らしておきたい。



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