ようこそ Fish Food Times へ
The Fish Food Retail Net
平成22年10月号 No.82
金目鯛焼き霜造り
1 2
今号は金目鯛の焼き霜刺身を二つ並べてみた。
両方とも金目鯛の焼き霜造りであることは違いないのだが、少しだけ違っているところがある。
2の刺身の右側の方にある薄造りは焼霜をしていない。
そして下の二つの写真を見比べていただきたい。
姿形は良く似ているけれども、少し違いがあるのは確認出来ると思う。
どちらも金目鯛と呼ばれているのだが、姿形が違うように名前も違うのである。
A
B
さて、巻頭の二つの刺身も「どちらかが、どちらかになった」のだが違いが判るだろうか。
魚関係で長く商売をしているプロの方は、
魚の姿形を見ただけで、一発で名前を直ぐに答えられる人はいると思う。
しかし、上の焼き霜の刺身の1と2とを、AとBの魚に正確に結びつけられる人は、それほど多くはいないのではないだろうか。
さて、魚の名前が判らない人はここに答がある。
ヒントは「1の方が焼き霜を平造りにする時は難しかった」ということだ。
それは切る時に中途半端に包丁を入れると皮が剥けやすく、切れる柳刃で勢い良く包丁を入れるコツが必要だったからである。
姿形を見て名前を即決出来るような人は、このヒントでだいたい分るのではないかと思う。
金目鯛の料理と言えば、何と言っても煮つけが美味しく、特にこれから脂が乗ってくる秋から冬となると最高の味となる。
下の写真は煮つけ用の切身。
金目鯛は同じように赤い色をした赤ムツ(ノドグロ)と同じく深海に棲む魚であり、脂の乗りは一年中あまり変らないというのも、これまたノドグロと同じなのだ。
更に特徴として目玉が身体の割りに大きいのも似ている。
同じ赤い色をした魚でも、真鯛のように産卵前の頃と産卵後の時期では、脂肪比率が変ってしまって味が大きく違う魚もいるが、金目鯛はそれほど大きく季節の違いによる味の差がないのも特徴である。
金目鯛と赤ムツは色んな似通った点があるけれども、金目鯛はキンメダイ目キンメダイ科キンメダイ属という立派な純粋系種であり、赤ムツはスズキ系スズキ目スズキ亜目という何処にでもいる多くの魚の一種である。
下の写真の赤い皮の焼き霜刺身は、赤ムツと近い系列のスズキ系スズキ目スズキ亜目の魚である。
これも同じように焼き霜刺身なので脂が乗っているかと言うと、これは沖縄で赤マチ、奄美では赤マツと呼ばれる、ハマダイ科フエダイ属のハマダイという魚であり、身質にクセがなく非常に美味しいのだが、脂はほとんど乗っていない。
そして、これは皮が剥けることもなく薄くも厚くも思い通りの厚さに切ることが出来た。
つまり焼き霜を切る時、赤ムツやメダイ、本金目など皮下脂肪が多いと刺身を引くのが難しく、平金目やハマダイのように皮下脂肪が少ないとそれほど難しくないのだ。
魚の皮下脂肪が多いか少ないかで包丁の入れ具合が変る、というのは、刺身を切る人が頭の隅に意識として入れておくべきことなのである。
今号では、ここまで赤い皮の魚を「焼き霜刺身」にしたものを3種類紹介してきた。
魚の刺身は「皮を外して身だけを食べるもの」という一般的な常識があるが、魚は「皮も一緒に食べた方が間違いなくを美味しい」と思うし、そう感じてくれる人も多い。
皮を一緒に食べる刺身として「湯霜」という方法もあり、どちらかと言えばこちらの方がメジャーのようであるが、香ばしい風味もプラス出来るというのは、やはり焼き霜でしか味わえない。
焼き霜の刺身にするにしても、メジナのように黒い皮の魚はどうしても見た目が暗くなって、商品に派手さがないのは損であるが、その点赤い魚は何と言っても得だ。
だからどうしても焼霜にする時は、つい「赤い派手目な皮をもった魚」を選んでしまう。
赤い色の魚の方が、万人向けの絵になると感じるからであろう。
カツオのタタキも焼き霜という刺身技法の一つであり、まさにメジャー級の刺身であるが、これはカツオの「臭いがあってクセもあるが、栄養の塊でもある大きな血合」を、捨てずにそのまま刺身で食べるために先人が考えた知恵の産物である。
しかし血合の少ない上記したきたような白身系の魚は、そういう工夫は必要なかったので、わざわざ焼き霜にされることは少なかったようである。
焼き霜の刺身は、これまで Fish Food Times の既刊号で何度も取り上げてきたが、やはり美味しい刺身の食べ方であることは間違いないのである。
金目鯛が手に入ったら焼き霜の刺身を是非試してほしいものである。
更新日時 平成22年10月1日 |
ご意見やご連絡はこちらまで info@fish food times