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令和 7年 2月号  254

サワラ

サワラ(新版)


今となっては、何とも恥ずかしい

今月号で採りあげることにしたサワラは、今から19年前の平成18年2月号で「サワラの焼霜刺身」をテーマとして記事にしていた。しかし、その記した内容を今となって見直してみると、何とも恥ずかしいとしか言いようがない。当時の筆者は、ホームページとやらを誰の力も借りず自分で作り始めて3年目に入ったものの、まだ色々なことが分からないことだらけで、試行錯誤を繰り返していたことがその要因の一つだと思われる。

更に、自分がそれまで蓄積してきた知識や技術を、どのレベルまで発表して良いものやらが曖昧なままで、基本的に水産物小売の業界に対して画像の掲載と多少のコメントなどの方法によって、商品提案などの投げかけはするものの、それ以上深く突っ込んでノウハウの公開に類するようなことはやりたくないという気持ちの方が当時は強かったと記憶している。

そんなことだから、当時はあの時の内容以上のことは敢えて記したくない気持ちがあったのであり、あんな低いレベルの貧相な内容で終わっていたのである。約20年後の今となってみると、そんな心の狭い了見そのものが自分の価値を貶めることにつながっていると感じていて、何とも恥ずかしい限りである。

そのような恥ずかしい思いをこの機会に払拭すべく、今月号では改めて自分が持っているサワラに関する知識を出来るだけ多く詰め込んで、読者の皆さん方に少しでも満足してもらえるような内容にしてみたい。


本鰆

今月号で扱うのは本鰆(ホンサワラ)と呼ばれるサワラであり、別の漢字で狭腹と書くのが語源らしく、魚体は細長く腹の形が比較的狭いのが特徴である。下の画像は1.2kgほどの大きさなので、サワラとしては大きなサイズではなく、1kgより小さい大きさになるとサゴシ(狭腰)と呼ばれるようになり、このサイズはあまり脂がのっていないことで取引価格は随分と安くなるのが普通だ。

サワラ

サワラと呼ばれている魚は何種類かいて、筆者は過去にヨコシマサワラ、カマスサワラなどを何度も扱ったことがあり、本鰆との違いは理解している。しかし、ヨコシマサワラとカマスサワラは水産小売業界においてあまり明確には区別されず、一般的にどちらも沖サワラと呼ばれることが多い。

下の画像は沖縄近海で獲れた約10kgを超えた大きさのヨコシマサワラである。これらの画像で大きさの比較は出来ないけれど、上画像サワラの8倍以上の大きさがあり非常に大きい。 

ヨコシマサワラは福岡県、長崎県、山口県など玄界灘に面した地域でヤマイヌとの名称がつけられていて、筆者は魚にこんな名前がつけられていることに長い間不思議な思いを抱いていた。現時点で筆者が自分なりに出している答えは、この魚は肉食性で幼魚の時から自分と同じくらいの大きさの魚に食らいつくような旺盛な食欲があり、更には鋭い歯が並ぶ大きな口の様相から、ヤマイヌという名が冠せられたのではないかと想像している。一方、サワラ(本鰆)の方も旺盛な食欲は似たようなものらしいが、その顔つきの違いからかヤマイヌのように獣じみた魚名で呼ぶところは全国どこにもないようである。


白い色の赤身の魚

これらのサワラも沖サワラもサバ科に属しているので、マグロやカツオなどと血筋は近く、皮の下の魚肉を見る限りは白っぽくて白身のようだが、実は赤身の魚なのである。

その理由は、魚は身の色ではなく色素タンパク質の量によって赤身か白身か区別されるからである。色素タンパク質とは、血液の中にあるヘモグロビンや筋肉の中にあるミオグロビンといった色のついたタンパク質のことである。色素タンパク質が100gあたり10mg以上あれば赤身魚、それ以下であれば白身魚であり、サワラは10mg以上あるので赤身の魚に分類されるのである。ちなみに、サケの身が赤いのはカロテノイド色素の一種で抗酸化作用や老化防止効果があるアスタキサンチンが含まれているためであり、 色素タンパク質量は10mg以下なので身は赤いけれど白身魚である。

筆者は、サワラという魚はどんな料理にしても美味しい魚だと思っているが、そのように感じる要因は比較的柔らかい身質でありながら白身の魚ような色であるにもかかわらず、その身には脂質が100g中10.8gもあるからではないだろうか。

比較対象として、白身の代表的な魚であるヒラメの脂質は100g中に2.5gであり、そしてサワラの脂肪分はヒラメの4倍以上もあるのだ。白身と赤身の比較だから、それはそうだろうと思われる方もいらっしゃるかもしれないので、次にサワラをクロマグロと比較してみると・・・

同じサバ科の親戚筋にあたる赤身魚の代表格であり、大トロ・中トロなど脂身の特徴でお馴染みのクロマグロと比較して、この意外な数字である。クロマグロの脂質8.7gの数字は、計測したクロマグロが実際にどれほどの大きさだったのかや、どの部位を使ったのかによって脂質のパーセントは大きく変わる。だから、ここではそれらの表示が省略されているために、厳密な意味での正確性はさておくとして、注目してほしいのはサワラの脂質の高さという点である。

この数字はサバやイワシなどの赤身の青魚は総じて10%以上の脂質があり、サワラもその例に漏れない血筋の魚だということを示している。その他に、サワラは身が柔らかくて身割れしやすいことも他の赤身の魚と同様だが、一方ではサワラが他の青魚との大きな違いとして、その身の色が白身魚のように白くて上品な色合いであることが最たるものであろう。

基本的に、赤身の魚が脂がのっているかどうかを判断する時は「赤身の色が白っぽいかどうかを見て、白さが目立つようであれば脂がのっている」と見るのが魚小売り現場の常識である。特に冬場の寒ブリや寒サバなどは三枚おろしにして、その点を見れば直ぐにおおよその判断がつく。こういう観点からすると、サワラの場合はそういう脂肪による白化現象のようなものが常態化したとも考えられないことではなく、つまりサワラは脂がのって美味しい魚ということになるのである。


サワラの商品化

さて、サワラの知識面での前置きはこれくらいにして、このどんな料理にしても美味しいサワラという魚を販売していくにあたって、ここからは多少の技術的ヒントのようなものも以下に記述していきたい。

先ずは骨付き切身の商品化作業工程である。

サワラの骨付き切身作業工程
サワラ サワラ

1,下身の胸ビレ横に、タスキ落としの技法で、斜めの角度に切り込みを入れる。

6,二枚おろしにした状態。

サワラ サワラ

2,上身は胸ビレの頭部側横に真っ直ぐ切り入れ、切り落とし技法で頭部を分離。

7,胸ビレ、背ビレ、尻ビレを切り離し、カマも形良く切り揃える。

サワラ サワラ

3,下身側の尻ビレ際に切り込みを入れ、中骨の上を山高骨の方へ切り進める。

8,尾ビレを少し大きめに切り離し、頭部側に切身を作るサイズで切り入れる。

サワラ サワラ

4,下身側の背ビレ際に切り込みを入れ、中骨の上を山高骨の方へ切り進める。

9,切身が重量的に3等分になるように、長さを調整して切り離す。

サワラ サワラ

5,尾部側から頭部側へ山高骨の上を切り進み、下身を切り離す。

10,重量のバランスを考えて、尾部側が少し長い形に3分けした切身の状態。

サワラ

中抜きをした頭部側と尾部側の切身を一緒に盛りつけたボリューム優先の商品。

サワラ

三つの切身の中で一番形が良い真ん中の切身。見た目の価値を訴求する商品。

 

これらの切身を煮魚にすると以下のようになる。

サワラの煮付け作業工程
サワラ

1,煮汁を煮立ててからサワラの切身を入れる。

サワラ

2,アルミホイルで落とし蓋をして煮付ける。

サワラ

3,時々切身の上に煮汁をかけ、全体に味をつける。

サワラ

サワラの煮魚が完成

 

サワラは身が柔らかいので煮ると身崩れしやすいことから、煮魚には向かないとされることもあるようである。だが、それは中骨がなければそうなるかもしれないけれど、このように中骨が付いたままであれば、何ら問題なく 煮魚ができる。だから、そのような情報はあまり気にする必要はないだろう。

サワラの切身を骨なしで販売する場合、以下のようにトレーを一度フィルムで巻いて、その上にサワラの骨なし切身を載せると、薄っぺらい骨なし切身がトレーの下に沈み込むことはないし、切身がずれて動くことがないので重宝する。

サワラの骨なし切身各種

サワラ切身フライ用

サワラ切身竜田揚げ用

サワラ切身ムニエル用

 

サワラはその特徴として身が柔らかいことを上記したが、それだけではなく皮も柔らかい。しかも、皮は比較的薄い方に属し、皮下脂肪そのものは他の青魚のように多くはないので、アジ、イワシ、サバ、サンマのように皮を手を使って引っ張り剥がす方法は難しいのだ。このため、サワラの皮を包丁で引いて除去するという作業は途中で皮が切れたりする可能性が高く、他の魚よりも皮引きに慎重さが求められ、その作業を上手に仕上げるためには、数をこなす慣れのようなものが必要となる。

また、赤身という身質だからなのか、血合いの変色スピードが比較的早いために、皮を除去して商品にすると、その商品の見た目がどんどん早いスピードで悪化する。このため、魚売場の商品の中でサワラはプライスダウンになりやすい魚の一つであり、販売担当者はサワラを皮なしの商品として売ることは避けたがることが多い。

そういう理由もあって、サワラの商品には以下の画像のように皮を炙りにしたものが多い。もちろん、皮を炙りにすると香ばしくなって美味しいので、こうするのは魚売場の担当者だけでなくお客様からも好まれていることが一番の理由であろう。

炙りを施したサワラの刺身と鮨

サワラ炙り平造り刺身

サワラ炙りにぎり鮨

 


皮なしのサワラ商品化

しかし、一方でサワラの皮なしにした商品がほとんど存在しないというのも、サワラという美味しい魚のあつかいかたとしては片手落ちというものであろう。筆者は今月号に関して、20年前に手抜きをしていた汚名を挽回をするためのやり直し版にするとの思いがあるので、以下にはサワラを皮なしにした商品化に的を絞って記していきたいと思う。

先ずは、サワラを内引き技法によって皮引きをする作業工程である。

内引き技法によるサワラの皮引き作業
サワラ サワラ

1,上身と下身の両方とも、腹骨を除去する。

4,下身の方も内引きで皮を引く。

サワラ サワラ

2,上身の皮を内引きで皮引きする。

5,柳刃は前後に動かしながら頭部側へ切り進み、皮を除去する。

サワラ サワラ

3,上身の皮が除去された状態。

6,内引き技法で上身と下身の皮を除去した状態。

 

サワラの皮引きを打ち引き技法によっておこなうと記しているが、その理由は皮と身の間に柳刃の刃先を食い込ませる時、内引き技法は刃先が皮へのあたりという点で、鈍角になりソフトになるため、外引きの技法よりも皮が途中で切れたりする恐れが少ないからである。

魚の皮引き技法には、大きく分けると外引き技法と内引き技法の2種類ある。

その使い分けとして、 内引き技法は、@皮が薄く柔らかい魚、A魚体が小さい魚、B青魚のように皮下脂肪が多い魚、C大きな魚を小さな部位に小分けした皮付きの短冊や節、などの時に重宝がられる技法だ。

そして、外引き技法は以下のようになる。@本来的に皮が固く多少無理に包丁の動かしても皮が切れにくい魚、A魚体がとても大きく、まな板の上で柳刃を持った右腕を大きく動かさなければならず腕力も必要とされる魚、B皮引きをした後、皮下の紋様を出来るだけ綺麗に残し、より良い仕上げの商品にしたい場合、というように区別される。

魚売場の担当者は、内引き技法も外引き技法も魚の種類や丸魚から小分けされた部位の状態など、必要に応じて使い分けなければならない。だが現場でよく見かけるのは、どんな魚であってもすべて自分が得意とするどちらかの技法でしかやろうとしない人がいることである。これは、結果的に少し歪な偏った技術だけを身につけていることになり、これは魚の仕事をする上では応用力という面で残念なことである。

さて、皮を除去したサワラを生食用の材料としていく場合は、頭部側と尾部側を使い分けるのがお勧めである。なぜなら、サワラにはとても太くて長い血合い骨があり、これらは頭部側から三分の一の辺りまでしか存在していないが、それとは逆に尾部側の三分の二の部位には血合い骨が全く存在しないからである。

さらに、頭部側の血合い骨を引き抜くと背と腹は自然に分離してしまい、背と腹が元のくっついた形のままでの商品化は不可能となる。そのため、皮を除去した頭部側は背と腹を別々に包丁を入れることを前提としなければならない。例えば、以下のようにカルパッチョサラダの材料として活用すれば、切った身の形を綺麗に切り揃える必要がないので楽である。

サワラの頭部側を使ったカルパッチョサラダ

1,血合い骨が存在する頭部側と存在しない尾部側とを切り分ける。

3,スライスしたサワラを全体に散らしながら野菜の上にのせていく。

2,ベビーリーフなどの野菜を容器に準備し、背と腹を分離した頭部側の身をサラダ用に薄造りする。

4,縦に半割にしたプチトマトを全体に満遍なくトッピングする。

カルパッチョドレッシングをかけてサワラカルパッチョサラダが完成。

 

一方で、尾部側はどうするかと言えば、血合い骨がないので背身と腹身がくっついた形で商品化することができる。今回の場合はその形のままカットして鮨ダネにして鮨の商品化をおこなうパターンと、背割りをして刺身平造りの商品化をおこなうことにした。

サワラの尾部側を使った刺身と鮨

サワラにぎり鮨

サワラ平造り刺身

1,左の姿勢で下身表面の際まで切り進む。

1,背の方の形を幅が均等な長方形になるように意識して、背と腹を切り離す。

2,刃先が下身表面の際まで進んだら、包丁の峰を真っ直ぐに起こす。

2,先ず、腹身を平造りして盛りつける。

3,柳刃の峰を起こしたまま、刃先を手前に引いて切り離す。

3,背身を平造りして、二山に盛りつける。

サワラのにぎり鮨10カン入り

冊の端の切り出しをムダにせず盛りつけて、サワラ平造り刺身が完成。

 

サワラは身が柔らかい魚ということを頭に入れると、刺身は薄造りではなく平造りにすることで柔らかさのデメリットをカバーできる。また、にぎり鮨用の鮨ダネもあまり薄くせずに、多少は厚めに切るようにした方が美味しく感じることができる。


サワラの地域性と食としての位置づけ

昨年、サワラのことで筆者にとっては印象的な出来事があったので、そのことに関連したことを以下に記して今月号の締め括りにしたいと思う。以下のことは、毎月FISH FOOD TIMES に目を通してくださっている読者の方は、「あーっ、あの時のあのことか・・・」と思ってもらえることである。

筆者は昨年の10月に山形県を旅し、酒田市に所在する郷土料理店「旬味 井筒」で経験したことを、FISH FOOD TIMES 11月号の中で以下のように記していた。

・・・大将は筆者に時々話しかけてくれて退屈することはなかった。

その話の中で一つ面白くて記憶に残っていることがある。それは酒田魚市場に最近サワラがよく水揚げされるようになったということだ。サワラはもともと山形で漁獲されることはほとんどないので馴染みがなく、地元の水産関係者はほとんど誰も手を出さないため、非常に安い価格で仕入れることが出来ているということで、店としてサワラはとても重宝しているという話だった。

サワラというのは全国的な位置づけでは岡山県がダントツで有名だが、福岡県の玄界灘でもよく獲れる魚として馴染み深い魚である。そのサワラという西日本の海域に多く棲息している魚が、東日本の東北海域で多く漁獲されるようになったという事実は、海の環境変化の事実として受け止めておきたいと思った。

その仕入れ面でメリットを享受しているというサワラは、この日お通しと刺身盛り合わせの両方に使用されていた。刺身は何日か熟成させてから炙りにしているということだし、お通しの分は味噌漬けにして焼いて出すというように一手間を加えてあるので、本来旨い魚の代表でもあるサワラが、ひときわ味の点で存在感を増しているという感じだった・・・。

 

このように、店の大将が話してくれたことは、以下の図と資料でも位置関係として裏付けられている。

 

水産研究・教育機構水産資源研究所 水産資源研究センターが発表した「令和5年度サワラ日本海・東シナ海系群の資源評価」によると、サワラ資源は1980年代に1.7 ~ 4.5万トンの漁獲量で推移していたが、1990年代に急激に減少し、1997年には822トンまで落ち込んだ。しかしその後は増加傾向に転じ、2006年以降は1万トン前後で推移し、直近5年間(2018〜2022年)の平均漁獲量は9,252トンだった。

サワラの漁獲量というのは、上の図からも理解できるようにチャイナや韓国の動向が大きな影響力を持っており、近年を含めた毎年のサワラ漁獲量は、チャイナが35万トン前後、韓国は3万トン前後ということで、数字の桁が違うのである。

日本では東シナ海の漁場に出向く大中型まき網によるサワラ漁が衰退し、定置網によるサワラの漁獲が安定している傾向があるようで、このことから鮮度の良いサワラが今後も安定的に入荷してくる可能性があると考えて良いようである。

ちなみに、以下の図はサワラ瀬戸内海系群の分布域である。

 

この地域でのサワラの漁獲量は以下のように発表されている。

瀬戸内海に面する岡山県は日本で一番サワラを食べる地域として有名である。これは春になって産卵のために瀬戸内海にやってきたサワラを、岡山県ではたくさん漁獲し食べてきた歴史があるからである。

しかし瀬戸内海においても、サワラを1987年に15,718トンを漁獲して以降、1998年には199トンまで激減することになった。このサワラ資源減少の事実を受けて、その後は秋漁の自主休漁や種苗放流などの努力によって漁獲量は増加に転じた。だが上の表にあるように、その漁獲高はせいぜい年間2千トン強の量で推移しているのである。つまり、日本でのサワラ漁獲量は現時点で東シナ海系群の1万トンと合わせるとほぼ1.2万トン程度だと推測される。

このようなサワラの資源量と漁獲量の実態が、日本のサワラ需要にたいして不足しているのかどうか、筆者は判断することができない。しかし、サワラが今後最低でも毎年1万トン以上、安定して漁獲され続けることが期待されるのであれば、それはそれで良いのではないかと感じるところである。

サワラは美味しい魚の一つとして、これからも日本人の胃袋を満たし続けてほしいものである。


水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している

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更新日時 令和 7年 2月 1日