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平成22年 7月号 No.79



石鯛薄造り



これは「石鯛」の薄造りである。

石鯛は高級魚として知られており、魚の名前は一度や二度くらい聞いたことがあると思う。

しかし、石鯛をいつもごく普通に食べているという人は、一部の接待族や高収入の人を除くと、それほど多くはないのではないかと思う。

石鯛は高級魚と言われるだけあって、市場での取引相場は2,000円/kg前後はするので、どこでも簡単には扱えない魚であり、食べるにはそれなりの出費を覚悟しなければならないからである。


下の写真は成長した石鯛の姿である。

ほぼ同じような姿で、全身に斑模様の点がある「石垣鯛」というのもいる。

ishidai2

 

この写真は成魚というのが見ただけで判断出来る。

それは下の写真の石鯛の幼魚は縞模様があるが、これが消えているので大人だと分る。

それだけでなく、成魚は口の回りが黒くなっているが、これも大人になった証拠であり、この段階の成長した石鯛のことを別名「クチグロ」とも呼んでいる。

ishidai yougyo


石鯛はなぜ石鯛と呼ばれているかと言うと、そのヒントは下の写真にある。

ishidai kuchi

英名では、Striped beakfish(くちばしがある魚)と呼ばれるように、この特徴のある口の鋭い歯が、石鯛の語源となっている。

口先にある鋭い歯は非常に強力で、貝やウニ、カニ類など、硬い殻や鋭く硬いトゲを持つ魚介類などを好んで食べ、「石をも砕く鋭い歯を持つ魚」ということで、石鯛という名前をつけられたということである。


ishidai sannmai

 

これを三枚におろすと、

 

isidai kawasuki

「鯛」と名がつく通りに、真鯛そっくりの色目と形の地肌が現れるが、どちらかと言えば真鯛よりも紋様が太くハッキリしており、魚体は短く身厚である。

そして、下の写真は身から外された皮であり、これを湯霜をして小さく刻むことにした。

ishidai kawa


その皮を盛付けたのが以下の写真である。

巻頭の写真にも真ん中下に盛付けているが、下の平造りには右下へと配置している。

ishidai hiratukuri

九州博多では、石鯛のことを「チシャ」と呼び、

「チシャ皮」は石鯛でしか味わえない珍味として扱われてきた。

九州の各地では、この他にも石鯛のことを「ヒシャ」とか「クシャ」とも呼んでおり、このように、なぜ「シャ」という言葉がついているのか、今のところ分っていない。


この皮は、まだそれほど大きくない内は柔らかさがあって美味しいのだが、釣人が自慢して喜ぶような大きさになると、皮の硬さが目立つようになり、その旨味を皮の硬さが打ち消してしまうという事になりかねない難しさもある。

taikawa

例えば上の写真のような、真鯛の皮の湯霜などは「薄くて柔らかい」ので万人好みなのだが、「チシャ皮」は真鯛とは比べ物にならないくらい硬いので、その味をゆっくり噛んで味わうほどの余裕がないと、とてもその美味しさは理解は出来ない。


石鯛は「磯の王者」として、釣り人の間では絶対的な人気を誇る魚らしく、クチグロの大物ともなると、その釣り果は自慢の種になるということだ。

石鯛の刺身というのは料理屋で味わうことが出来るとしても、スーパーの店頭などで見かけることは非常に少ない。

例えば、トラフグの刺身のように「料理屋で食べるという行為そのもの」が、石鯛の自慢となるような存在になってしまうのでは寂しいと思う。

まだほとんどが料理屋の世界でしか味わえない石鯛を、一般の家庭でも皮を含めた形でもっと賞味してもらいたいものである。



更新日時  2010年7月1日(木)


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