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The Fish Food Retail Net
平成22年 2月号 No.74
魚屋鮨 旬鮮にぎり
魚屋の「魚屋鮨らしさ」とはどんなものなのか。
一つの答えは、上の写真のこれである。
冷凍ネタを使わず生魚の生ネタだけでのにぎり盛合せである。
振り返ってみると、魚屋が本格的に鮨を売り始めて何年経つだろうか。
ほぼ20年は間違いなく経過しただろうと思われるが、20年前に魚屋さんが鮨を売り始めた頃、その鮮度と手頃な価格で、まさに爆発的な売れ方だった。
しかし、今はどうだろう。以前ほど魚屋鮨が売れなくなったとの嘆きの声がアチコチで聞こえる。
時々その嘆きの声は、これだからそうなんだと思うことがある。
例えば、魚屋鮨を自ら名乗ってはいるものの、その中身を見ると、惣菜寿司とどこが違うの?と質問したくなるようなレベルの低い商品があるのである。
そういう質的にそれらしくない内容のものであれば、別に魚屋鮨を買わなくて、惣菜寿司で充分ではないか。
どうして惣菜の寿司のような魚屋鮨が多くなってしまったのだろう。
一つの原因として挙げられるのは、寿司ネタメーカーの台頭が考えられる。
魚屋鮨の担当者が自分でネタを切ることを面倒がって、寿司ネタメーカーが製造した真空袋入りの冷凍ネタを使い始めると、そのことによって作業の効率化は実現するが、その反面で魚屋鮨らしさは損なわれ、次第に惣菜寿司との境界線が見えなくなってきているのである。
また、仮にネタを自分で切っているとしても、そこで使われる材料は、解凍魚と養殖魚のオンパレードで、天然の魚は少なく、中身は似たり寄ったりなので、他店との違いはあまり見出せなくなっている。
あの店もこの店も魚屋鮨は似たようなものばかりだから、どこで買っても同じならば価格の安い方を選ぶことになる。
例えばあるディスカウンターの魚屋鮨というのは、1カン50円の売価を定番として位置づけているところもある。
ディスカウンターは魚屋鮨の「怠慢姿勢」の隙を突いてきているのだ。
現在魚屋鮨が、安売り攻撃に悩ませられているのであれば、これと戦う何らかの対策が必要であろう。
一番効果的なのは「価格で負けない」ことである。1カン50円以下の売価に設定すれば良いのである。
売価は同等以下で、しかも中身は上をいく事になれば売り負けしない。
それは、一工夫すれば出来ないことはないのだが、もしそれが出来ないのならば、別の方法を考えるしかない。
多少高くてもお客様が納得して買って下さる商品を提供することだ。
この方向性は魚屋鮨が当初から目指してきたことだった。
魚屋としては普通に売価をつけても、街の鮨屋さんより格段に安い、というのが魚屋鮨の真骨頂であった。
つまり、魚屋としてはまともな値入れ率を設定しても、寿司屋さんに比べると安いと評価していただけるのが魚屋鮨だった。
だから基本は「寿司屋さんに負けない商品内容」が大前提なのだ。
魚屋鮨は「お客様の面前でのにぎりたて」という行為を除けば、その他の部分は、やろうと思えば出来るのだ。
ネタは寿司屋さんと同じ鮮度のものがいつでも手に入るからである。
しかし何時の頃からか、魚屋の鮨は売れることに乗じて、次第に効率化という名のもとに手抜きを始めていったようである。
毎日手に入る様々な生魚を鮨ネタとして活用することを敬遠し、安定した価格で仕入れが出来る養殖魚と解凍魚をメインに使い、それは更にエスカレートし、メーカーの工場で製造され、真空袋に詰め込まれた冷凍ネタを、取り出してシャリ玉に乗せるだけ、というような流れが一般的となってしまったのである。
これは人件費を抑えるためのパート戦力化とも軌を一にしている。
つまり、パートさんはあまり面倒なことが出来ないから、単純な作業だけにしなければならないという考えが前提となっている。
ここにも効率化と省力化で「商品の品質が後退する」という図式が、魚屋鮨という商品にも見出すことが出来るのである。
効率化や合理化という施策による品質の低下が、お客様の購買意欲を低下させ、その結果が魚屋鮨の売上げ低迷へとつながってきたのである。
もう一度「魚屋鮨らしい魚屋鮨」の原点に立ち戻らなければならない。
原点に戻るにはどうすれば良いかというと、ポイントは「品質の向上」であろう。
惣菜部門でも仕入れたら使える冷凍ネタではなく、惣菜部門が構造上使うことの出来ない「生魚の生ネタ」を使うことで、明らかに「さすがに魚屋鮨だ」という差別化が可能となるのである。
それは、まともな魚屋であれば何時からでもスタート出来る。
特に生魚に強い魚売場を持つスーパーは、強い武器となるであろう。
例えば上の写真も、生魚の生ネタだけのにぎりであるが、4種類の白身はすべて違う魚を使っているので、それぞれに違う味を楽しむことが出来ることになる。
こういう魚屋鮨のにぎりはあまり見たことがないと思う。白身ばかり4種類もいらないという意見はあるに違いない。
別に冷凍ネタをこの中に入れても良いじゃないかと・・・
しかし、それでは激しい店舗間競争の差別化にはならないのだ。
ズルズルと売上げが下がっている魚屋鮨の売上げ回復には、競争店がやっていない独自性を実現したりすることで、これまでとは違った試みにもチャレンジしなければならない。
ここにある写真例は提案の一部であって、このような考えをヒントに何を生み出すことが出来るか、それが「考える頭を持った人間」であろう・・・。
要は「美味しい魚屋さんの鮨」を実現して欲しいということである。
そのためには、ネタの問題だけではなく、まだまだ解決しなければならない問題は一つや二つではなく、幾つもあるのだが、そのすべてをここで論じる訳にはいかない。
今や日本人だけでなく、世界中の人達が好んで食べる、鮨という料理の潜在的なニーズは、まだまだ無限に大きいと捉えるべきである。
鮨というのは、本来惣菜屋さんが扱うべき商品ではないのであって、魚屋こそ、それに相応しい資格を持っているのだから、もう一度、鮨のあるべき姿というものを、根本から見直してほしいものである。
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