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平成21年 10月号
うっかりカサゴ薄造り
10月ともなると、カサゴ類が繁殖の季節を迎える頃である。
繁殖と言えば、カサゴの仲間はメバルなどと同じく「卵胎生魚」なのである。
卵胎生魚とは、生まれる時に魚ではお馴染みの「卵」の形で生まれるのではなく、人間と同じような、親と同じ形になって生まれる魚のことである。
カサゴ類は子どもを自分のお腹の中で、ある程度成長させてから産むのだが、これは子どもがある程度成長するまで、お腹の中で育てることで、仔魚の死亡率を少しでも減らす目的があるらしい。
またカサゴは約半年にもわたる長い繁殖期の中で、1回から3回ほど、子を産むということだ。
このことを「多回産」というが、卵胎生の多回産というのは、産仔の時期をずらして、何度もの産仔を行い、厳しい環境の変化に対して、仔魚の全滅を防ぎ、何とかして子孫を残そうとする繁殖戦略のようである。
筆者は現認したわけではないので「ある物の本」によると、カサゴ類は哺乳動物のように「ドッキング」をするということであり、そのために雄は出っ張りがあり、雌には穴があるということだ。
この写真で見ただけではとても雌雄を判別できないけれども、「その時」にはそれが見えるようになるのかもしれない?
ところで、読者の皆さんは上の写真を、何の疑問もなく本物のカサゴだと思い込んではいないだろうか。
「うっかり」思い込んでしまった人もいるかもしれないが、実は「ウッカリカサゴ」という本種のカサゴとは別種の魚なのである。
カサゴ目フサカサゴ科カサゴ属ウッカリカサゴという魚種である。この命名の仕方は「冗談なの?」と聞き返したいくらいだが、実は本当に標準和名として通用するらしい。
どこがどう違うのかと問われても、実は簡単に説明できないくらい似ている。
魚類学者がうっかりしていて「新種」と気づかなかったので、これが命名の由来になるくらいなのだから、普通の素人感覚で違いが分かるはずはないのである。
大きな区別方法はこの写真である。
円形に囲んだ部分の周囲をボカシて、円の中を際だたせているが、その中の白い円形の模様に注目してほしい。
その白い模様が黒く縁取られているのを確認できるだろうか。
この「黒い縁取り」が本種のカサゴではなく、「ウッカリカサゴ」の証拠なのである。
本種のカサゴは黒い縁取りがない。
これだけを単独で見るともう一つ理解できないかもしれないけれども、横に並べると違いはそれなりに見えてくる。
残念ながら今回は並べて比較する材料となる手持ち写真がない。
ウッカリカサゴは、カサゴと比較すると大型なのが特長で、筆者の経験では魚体色もどちらかと言えばオレンジ色に近い薄手の赤色が多く、本種のカサゴの方は赤黒い褐色から褐色の「黒っぽい赤色系」が多い。
瀬戸内海周辺でカサゴは、メバルとかホゴメバルと呼ばれており、標準和名のメバルとは区別しないで扱われている。
また関西ではガシラ、九州北部ではアラカブと称し、島根県ではボッコと呼ぶなど、日本の各地で様々な名前で呼ばれており、カサゴはそれだけ馴染みの深い魚なのだろう。
このウッカリカサゴを刺身にするため、三枚におろし、皮すきにしてみた。
本種の小さなカサゴに比べると魚体が大きい分、調理が楽で歩留まりも良いと感じた。
本種のカサゴの料理は「唐揚げか、味噌汁」が一番、だと筆者は思っているのだが、頭ばかり大きくて歩留まりが悪く、魚体も小さいことが多いので、筆者自身も処理が面倒な、この魚の刺身は出来れば避けたいとの気持ちになる。 ところが、このウッカリカサゴについては、比較的大型のものが多いので、 刺身にでもしてみようかという気になったのである。
青魚のような脂ギトギトとは違い、白身で淡泊な味なので、何かをプラスして、違う味を加えてみたくなり、上の写真のように「皮」をボイルして刻み、薄造りの刺身に添付した。
そして、これを薄造りの身と一緒に、ポン酢と紅葉おろしで食するのである。
カサゴ系の淡泊な白身は「ワサビと醤油」ではなく、やはりこれだろう。
カサゴ系の刺身は、魚屋の店頭でいつでも買えるとは限らない。それは上記のような理由があるからであり、売り手がカサゴの刺身は面倒だと思っているのである。
運良くカサゴの刺身に出会えたら、すぐに躊躇なく購入をお勧めする。
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