The Fish Food Retail Net
平成21年 2月号
ウキシジャーの平造り
この刺身はたぶんほとんどの人が、珍しいと感じると思う。
見た目はなかなか美味しそうに見えるが、普通の人はめったに食べる機会のない魚である。
筆者も最近初めてこの味を知ることが出来た。
一緒に食べた人も恐る恐るという感じで、全員初めての経験のようだった。
実は誰も刺身で食べたがらない魚なので、捕獲されても市場に出回ることの少ない「未流通魚」の一つである。
味の印象は、脂肪分の少ない青物、喩えれば、飛魚の刺身に一番近い味かもしれないと感じた。
この魚はウキシジャーという沖縄での呼び名で、正式には「テンジクダツ」という名称の魚である。
ちょっと見た目は、サヨリだと思う人もいるかもしれないが、サヨリとはその大きさが全く違っていて、1m近くのもいるのである。
見た目は大きさこそ全く違っても、サヨリとそっくりのはずで、サヨリだけでなくサンマや飛魚と同じ仲間のダツ目に属し、他にダツ、リュウキュウダツ、ハマダツなど似た者がいる。
この魚で一番変わっていると思ったのは「浮袋」である。
この写真の上のピンク色の半透明の袋が浮袋だ。
手前の赤い臓器は長い胃袋で、長い胃袋はそれほど珍しくないが、この浮袋は珍しい。
何が珍しいかと言うと、中は蜂の巣というか、あのプチプチと潰したくなる透明の緩衝材に、
似たような構造をしているのである。
実際に指で潰してみたところ、残念ながら緩衝材のような弾力はなく、単に小さな袋が音もなくフニャッと潰れるだけだった。
このウキシジャーは沖縄で水揚げされた飛びっきり新鮮なものを、店の作業場で解体したのであるが、魚市場には他の魚が何もないほど不漁の日にもかかわらず、買い手がつかず、100円/kgの捨て値で仕入れられたものだった。
ウキシジャーはこのように沖縄の魚市場でもあまり人気がなく、船の灯など光るものには何にでも向かって飛び込んでくるので、危険な魚として、漁師からも嫌われている。とにかく札付きの不人気ものなのである。
どうしてそんなに不人気なのか、その他の原因を調べてみたくなり、色々と商品化をしてみた。
腹開きにして、
先ずは切身にしてみた。
裏返しの中骨無し切身。
骨切りをしてみた。
ハモを骨切りする時よりは手応えはないものの、
やはりあのザクザクという骨切りの感触はあった。
上は骨付きの切身。
下は骨なしの切身。
これは胴切り。
刺身用の短冊。
これらを全て売場に出してみたところ、残らず完売だった。
しかし、刺身と短冊の生食用だけは敢えて店に出さなかった。
理由はこの写真にある。
拡大して見ると分るが、
このような、寄生虫が多いのである。
この写真の場合は少ない方で、酷いのになるとまるで模様のように、身の中が寄生虫の白い斑点だらけのものも実際にある。
だから買う人がいなくて、安いのである。
確かに刺身は恐いが、火を通せば美味しく食べられる。
でも、誰も手を出したがらない。
世の中には「未流通魚」のような、存在しているけれども、市場価値を認められず、
充分に活用されることもなく消えていく魚がある。
これも一つの厳然たる事実として受け止めなければならない。
ミスマッチというのはどこの世界にでもあるものだ。
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