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The Fish Food Retail Net
平成20年 7月号
鰻の刺身 湯あらい造り
今年も鰻が高い。
昨年に引き続き、シラスは今年の鰻年度も不漁だったようだ。
国内のシラス池入れは、輸入で補って何とか20トン台にはなったようだが、中国産鰻の消費が壊滅的状況の中、国産鰻の絶対数不足で相場は「ウナギ昇り」となっている。
今年、中国産ウナギは消費が低迷して相場が上がらず、国産のウナギだけは天井知らずの相場という状況にある。
産地の違いだけで中身はほとんど同じ「ジャポニカ種」なのだから、いま世の中を騒がせている「魚秀」とやらの産地偽装事件も、起こるべくして起こった事件と見ることも出来る。
中身は似たようなものが、中国産か国内産かという産地の違いによって、価格が2倍も違う異常事態ともなれば、決して事件の首謀者を弁護するつもりはないが、世の中悪いことを考える人間が出てきても不思議はない。
ところでご存知のように、今月7月は「年間で1番鰻が売れる月」である。
24日丑の日に例年通り鰻は売れるだろうか。
中国産への消費者の不信はまだ根強いようで、その購買行動を敏感に感じ取った小売業者の「無い物ねだり」が、国産鰻の取引相場をどんどん押し上げ、末端売価が随分と上がることになってしまった。
今の日本、7月に入って様々な分野の商品の値上げが続いていて、消費者の生活防衛色はますます高まっているようで、高い鰻でも平気で買ってくれるという消費者心理の状態ではないようだ。
こういう環境における鰻商戦は、安さに走ったり、代替品に逃げたりせず、正攻法で臨むべきだろう。
鰻の蒲焼だけではなく、素焼き(白焼き)の料理提案など、色々な「鰻の食べ方の提案」に力を入れる必要があろう。
今月号の鰻の「湯あらい造り」の刺身もその一つである。
鰻の「刺身」と聞くと怪訝な顔をされる方もおられるとは思う。
普通「鰻は刺身にしない」というのが一般的な常識である。
それは、鰻の血の中にイクシオトキシンという毒が入っているからである。
このイクシオトキシンという毒は、傷口に付くと炎症を起こしたり、口から入ったら、吐き気などの中毒症状を引き起こす、とのことが筆者は体験したことはないけれども「物の本」には記されている。
熱に弱く、消化や腐敗によって毒性は失われるが、ふぐの毒のように「しびれる」事は無いらしい。
ところがこのイクシオトキシンという毒性物質そのものが、「焼いた鰻の独特の旨味の源」となっているというのだから面白い。
このようにイクシオトキシンは「熱に弱い」という事実があるので、刺身の方法としては「湯洗い」をしたのである。
湯洗いの温度としては、少し熱めな80℃前後のお湯で瞬間的に湯霜をして、すぐに氷水で締めて冷やしているので毒の心配はない。
この「湯洗い」という技法は、鯉の洗いなどにはよく使われる方法で、氷洗いの技法よりも確実に早く効果を出せる。
今回は4Pサイズで同じような分量の湯洗いの商品が3ケできたので、原価は約300円強ほどにあたる計算になる。
このような「珍味」に、どれだけのお客様が興味を持っていただけるか判らないが、「生の鰻は毒があるから刺身に出来ない」という一般的な常識を、この方法によって「・・・いや、出来ないことはない」と反証することは出来た。
もちろん、筆者は「毒味」も実験済みである。
少し酸味を感じる独特の味は「面白い味」だと思う。
味の良し悪しは人それぞれだと思うが、興味のある方はお試しあれ。