Fish Food Times
平成18年 7月号
イラブチーの薄造り
奄美以南でイラブチーと呼ばれているブダイは、南国系の魚であるだけに、この魚をよく食べているのも、やはり奄美以南の人たちが多いようである。
刺身の味はチョット独特のもので、ほんのかすかに「酸味」のようなものがあり、脂肪分でギトギトの養殖魚とはまったく別の世界を味わうことが出来る。
そのイラブチーは派手な色合いで少しグロテスクなこんな姿をしている。
この魚はほんとに刺身で食べられるのかと、見かけだけで判断する人もいるが、もちろん刺身で美味しく食べる事が出来る。
ワサビ醤油も良いが、ポン酢と紅葉おろしとのマッチングもなかなかである。
この魚を刺身用に皮をすくと、このようになる。
面白いと感じるのは、皮の下の身の色がそれぞれ違っていることだ。
上の写真は大小4尾のイラブチーだが、同じイラブチーなのに青や赤や茶色と表面の色が違っていた。
それぞれの個体色の違いが、皮下の身の色まで影響しているのだ。
だから刺身をしても、同じイラブチーなのに体色が別だと違った感じになる。
イラブチーの平造り
そして、イラブチーで特に面白いのは下の写真である。
これはこの魚の臓器の一種であるが、何だか解るかな。
魚の仕事で長年イラブチーをさばいている南国の人でもこれを知らない人が多い。
これは咽喉歯と呼ばれる臓器で、口の奥の食道の入り口の前にあり、石のように・・という表現より「鉄のように」硬いギザギザの「歯」である。
上の写真では、細い湾曲した右の部位が、同様に湾曲した少し太めの左の部位に、食い込むように噛み合わされるようだ。
しかも、右の部位は縦二つに分かれるようになっている。
そして、下の写真がちょうど上の臓器の裏側の部位にあたる。
写真を撮るために上下が逆になっているけれども、鮮紅色の方円状の部位がエラであり、その間が食道入り口の噴門部である。
噴門部から入った珊瑚などの硬い食べ物が咽喉歯で噛み砕かれるようだ。
写真では上部の白い骨が縦に割れている部位があるが、これが咽喉歯の裏側の出口の部分にあたり、ここから噛み砕かれた食べ物が食道と胃へと流れていくという構造のようである。
この他にもイラブチーは、色々と「変なところ」がある変わり者で、外見的には、硬い珊瑚も削り取る嘴(くちばし)のような鋭い唇(歯?)があり、大きく成長した雄は、頭に大きな瘤を作るし、成長段階では性転換が得意で、自由に男にも女にもなれる特技がある。
また、寝る時は口から出した粘液で作った袋状のベッドの中で寝るということだ。
何とも「奇妙な」事が好きな魚だと感心する。
皆さんも変わり者のこの魚を一度ご賞味あれ。