Fish Food Times
平成18年 6月号
シイラはあまり美味しくないとされており、一般的にその評価は高くない。
それは、あまりにもサッパリとした脂肪分の少ない身質に原因があるようで、シイラ料理方法では、特に塩焼とかの人気はもう一つである。
その身質の欠点を補う簡単な料理方法の一つとして、上の写真のように「とろけるチーズ」を挟んでソテーにする方法がある。
評価が高くない分取引相場も安いので、料理の提案次第では面白い商品になる。
そのシイラが産卵期を迎えている。
この写真のように雌は何百万粒もの卵を抱える時期となっている。
大量の卵を産卵することから、九州地方では「万疋(マンビキ)」とも呼ばれ、「万引き」と誤解されるその名称は印象深い名前でもある。
腹が金色に光っていることから、佐賀地方では「金山(カナヤマ)」と呼ばれるが、全国各地に様々な名前があり、中には「死人食らい(シニビトクライ)」という大変不名誉な名前でも呼ばれている地方があり、その地方でシイラはまったく売物にならないそうである。
これはシイラが漂流物の下に集まる習性があるので、昔、死体が海に浮いても珍しくなかったような世情不安定な時代に、浮いた死体の下に集まり、まるで死体を食っているように見られたことから、こんな不名誉な名前を頂戴したようだ。
この習性を利用した漁法が日本海での「シイラ漬漁」というもので、竹の筏を組んで、その下に集まるシイラを網で捕らえるそうである。
ところで、写真の上が雌で下が雄と見た目でハッキリと区別がつくのも特徴。
この写真はある南の島の小さな魚市場に水揚げされたもので、なんと「雌雄一対のシイラ夫婦」のようなのだ。
筆者は前日もそこで同じように雌雄のシイラが水揚げされていたのを現認した。
漁師から聞くところでは、夫婦の雄が釣れると雌が追いかけてきて、結局、雌まで同じように釣れてしまうそうだ。
高知県では昔、結納の魚にシイラの雌雄一対が用いられたそうだが、シイラのこのような習性を尊んで、仲の良い夫婦を比喩したものらしい。
あまりイメージの良くない名前で呼ばれたりしている魚だが、実はこういう意外な一面があることも知ってほしいものである。