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平成24年 3月号 No.99



白ミル貝姿造り


3月、いよいよ春の季節到来。

春の季節の代表する魚貝類と言えば、貝もその一つ。

3月3日ひな祭りのハマグリを始めとして、アサリ貝やミル貝、赤貝など、春に旬を迎える貝類は、その多くの種類を数えることが出来る。

貝類は春先から初夏にかけて、産卵期を迎える前の栄養を溜め込んだ時期に当たる。

その中で、今や個体数の大幅な減少によってその存在感が薄くなっている、ミル貝に今月は焦点を当ててみよう。


ミルクイ(海松喰)と呼ばれる本ミル貝と、よく似た白ミル貝というのがある。

本ミル貝は黒ミル貝とも呼ばれ、絶滅を危惧されるほど希少になっており、その相場は「超高値」で、高級料亭でしか扱えない存在だ。

ミル(海松)とは緑藻の一種で、この貝の水管に着生している事が多く、まるでその藻を食べているような姿から、ミルクイ(海松喰)と呼ばれるようだ。

本ミル貝は二枚貝の殻も水管も全体的に黒っぽく、直ぐに見分けがつく。

実は筆者も本ミル貝はこれまで扱う機会が少なく、その画像も持ち合わせていない。

そのため、この紙面では白ミル貝に関連したことだけを記すことにする。


これが白ミル貝である。

ナミガイ(波貝)とも呼ばれ、これは殻の波のような模様からきたものらしい。

ミル貝の特徴的な姿は、何と言っても「長く伸びて大きな水管」にあるが、この部位は大きく伸びたり縮んだりするので、皮が無数のシワになっている。

殻を外すとこのような姿となり、丸くて大きな肝臓の部分も、バター焼きなどで食べることも出来るようだが、残念ながら食べたことはないのでコメントできない。

上の画像は水管の皮をむいた後だが、このように皮をきれいに剥くには、水管を熱湯に瞬間的に入れ、これを氷水で冷やすと、面白いようにスルスルと楽に皮が除去できる。

もし熱湯を潜らせないと、皮はくっついて簡単に剥けないことが多い。

上の画像の下の方の位置にあるのが、シワになって覆っていた皮であり、 このように皮を伸ばすと水管の3倍以上の長さになるのが判る。

つまり、縮んだ水管もこのシワの長さまでは伸びることも出来るということである。

そして、水管を開いたのが上の画像であり、左は二つ割り、右は観音開きにしている。

次に開いた水管を薄造りにしていく。

巻頭の画像と違った雰囲気の容器に盛り付けるとこのようになる。

この画像は活きが良すぎて、切って直ぐこのようにクルクルに巻いてしまったが、貝類の刺身というのは、まだしっかりと生きていることを前提とするので、本当に活きが良いと、こういう風に切られた後どんどん姿が変わってしまう。

だから調理人のイメージ通りの形を、そのまま残しておくのはなかなか難しい。

次には殻の外側を見せたこういう盛り付けにしてみた。

こちらは上ほど元気ではないので、切った形がそれほど変化していない。

つまり、見ただけで上の画像ほどは活きが良くないというのが判る。

しかしどちらが美味しいかと言うと、必ずしも上の画像の方だとばかりは言えず、下の方でも充分に美味しく、食べても特に大きな遜色はないレベルである。


ミル貝の刺身は、上品な甘さをもった独特の味わいがあり、食感はコリッとしているけれども、アワビやサザエのように固すぎず、噛めば噛んだ分だけ、ほんのりとした旨味が滲み出てくる、自然な味が特徴である。

死んでしまってから時間が経ったような貝は問題外だが、貝の刺身はまだ生きてさえいれば、基本的に美味しくいただける。

貝が生きているかどうかを確認するには「まな板にたたきつける」方法がある。

これは赤貝を刺身にする時に良く使う方法であるが、こうやって活きの良さを確認すると同時に、叩きつけられたショックで身が縮むと美味しくなるとも言われているし、赤貝の場合は飾り包丁を浮き立たせて美しく見せるという目的もある。

しかしミル貝の場合は叩きつけると逆に元の形が崩れてしまって体を成さないので、赤貝のような「惨い仕打ち?」はしない方が無難であろう。


3月から4月にかけての季節は、ミル貝だけでなく、その他の貝類が年間の中で一番美味しくなる時期でもある。

養殖魚のギトギトと脂ぎった食感などではなく、サッパリとしてほんのりと甘い、貝類の自然な美味しさをタップリと味わってみてはいかがかな。


更新日時 平成24年 3月 1日


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