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平成23年12月号 No.96
流れ造り四種盛合わせ
(ソデイカ入り)
鹿児島県や沖縄県に住んでいる人にとって、上の画像は何の違和感もないが、鹿児島県以北に住む人は、白いイカの「平造り」はあまり見たことがないはずだ。
イカ刺身は日本の多くで、引き造り、糸造り、薄造り等でつくるのが常識であって、このようにイカを「平造り」にすることは基本的にないのである。
ところが沖縄や奄美などの南西諸島の地域ではイカの刺身は平造りが常識なのだ。
イカを平造りするにはそれなりの厚さが必要で、その厚さには大きさも必要となる。
つまり、下の画像のような巨大なイカであれば平造りも可能ということになる。
このイカはソデイカと呼ばれる、非常に大きなイカだ。
学名Thysanoteuthis rhombus Troschel 分類ツツイカ目ソデイカ科ソデイカ属
1科1属1種で、筋肉質の砲弾のような紡錘形をしており、大きなものでは、体長1b以上、厚さ約5cm、体重が20kgを越え、食用になるイカとしては最大級である。
下の画像のように、解体したソデイカをタバコの大きさと比較すると、その巨大さが理解できると思うが、これでも比較的小さい方で10s未満なのだ。
英名を「ダイヤモンドスクイッド」と呼び、左右に広げたヒレが、ダイヤモンドの形をしていることからこのような名前が付けられたようだ。
日本では、大きな耳の形が袖のように見えることからソデイカと呼ばれる。
別名「タワライカ」「アカイカ」「タルイカ」「セーイカ」などとも呼ばれている。
全国でどれくらい漁獲されているのかはっきりしないけれども、沖縄県が一番多く、年間で2,000トン前後の漁獲があるとのことだ。
山陰や北陸でも9月から1月にかけて漁獲され、500トン強の漁獲量があるようだ。
ソデイカは主に下図のような「旗流漁」という独特の漁法で漁獲されている。
沖縄県水産課資料より抜粋 |
昼間は暗い深海に潜むソデイカを呼び寄せるため、水中ライトと疑似餌、目印として黒いビニールを付けた旗竿と浮きを投入し、ソデイカが疑似餌に食らいつくと旗竿が動く仕掛けのようだ。
沖縄南方の海で生まれ、黒潮にのって北上し、北陸あたりまで行き着き、1年で体長1m程になって、それからUターンして南へ戻り、南の海で産卵するようで、その寿命はスルメイカと同じく1年ということだ。
昼間は水深500m程の深海にいて、夜は海面付近まで餌を追って上がってくる。
また、大きな群れは作らず、ペア(雌雄)で釣れることも多いとのことだ。
大きなイカと言えば、映画などに出てくるダイオウイカがあげられるが、ダイオウイカはアンモニアが体内に多く含まれていて食用にはならないらしい。
ソデイカはメーカーで短冊状に加工されて真空袋に入れられた下のような商品が、レストランや寿司屋などで広く利用されるようになっていて、おそらく多くの人がソデイカとは知らずに口にしている可能性が大きい。
これがメーカーではなくて、店で短冊状に加工する工程は以下の通りである。
まず短冊幅の一丈(約8センチ)に縦割りしていく。
上の画像はまだ薄皮もとらず、皮がついたままの状態だが、下の画像は皮も薄皮も除去して、刺身用の短冊にしたものである。
そして、これをこのようにフィルムで巻いて冷凍庫に入れる。
ソデイカというのは面白いことに、生のままだと旨味がそれほど感じられないが、一度冷凍して解凍すれば、変身して「生よりも美味しくなる」という特徴がある。
だからソデイカを美味しく食べるためには、必ず一度冷凍しなければならないのだ。
これを解凍しても、ほとんどドリップらしいものは出ず、下のように短冊で販売する時は、特にドリップシートも必要無いくらいである。
イカの中には「甘いような旨味」を持つ、アオリイカやヤリイカ等があるけれど、ソデイカの旨味というのはそれとはチョット違っていて、絡みつくようなネットリ感とでも表現したくなる独特の味なのである。
身が厚く、もっちりとした感触の、このソデイカを平造りで切る時は、切られた身が、包丁に絡みついて離れないような感触があり、平造りがスピーディにすんなりとはいかない難しさがあるのも特徴である。
下の画像はソデイカを平造りにした商品の一つである。
ソデイカの短冊の身は、厚さが3センチくらいは当たり前なのだが、それ以上の厚さになると、高さを半分にするという処置をしなければならない。
3センチでも相当な厚さがあるので、平造りでも薄造りのように薄く切ることになる。
上の画像も高さがあるので薄く切り、結果として腰が無くなった刺身の例である。
ソデイカが美味しいのは身だけではなく、ゲソも美味しいのは他のイカと同じだ。
特にゲソの唐揚げは、軟骨部分がコリコリとした歯応えがあってとても美味しい。
この画像は主に軟骨の部分を唐揚げ用にカットしたものだ。
更に、耳はというと、このように細く切る。
これをそのまま盛り付けると、こんな商品になる。
沖縄では、この普通に食べるには少し固すぎるソデイカの耳という部位を、下のように色々な味付けをした珍味として商品化したメーカーがあり、
中華イカ、イカ山菜など、沖縄では人気抜群の「イカ珍味」になっている。
ソデイカ漁業というのは比較的新しくて20年未満の歴史しかないということだが、沖縄県では上記したように年間2,000トン前後の生産量があり、これはマグロ類に次ぐ重要な漁業生産物となっており、赤いマグロと、白いソデイカは、沖縄漁業における象徴的な紅白の存在である。
しかしいっぽう、ソデイカは沖縄から鹿児島県まではそれなりの認知度があるが、それより以北での認知度は非常に低く、商品としてはほとんど流通していない。
ソデイカが沖縄近辺の海域でしか漁獲されないのであれば、地域の特性魚種として扱われるのも仕方がないかもしれないが、毎年冬場には対馬暖流に沿った日本海沿岸の魚市場でも、北上したソデイカが、多数水揚げされている事実があるのだ。
これが一般消費者には全く届かず、一部の加工メーカーの手にしか渡っていない、という事実はあまりにもったいない話ではないか。
注目されず、買い手もつかないから、当然ながら高い価格で取引されることはなく、非常に割安でリーズナブルな価格で手に入るのである。
日本海側の魚市場では、必ずどこかでそれなりの量が水揚げされているはずだから、一度その気で探してみてはいかがかな・・・・。
更新日時 平成23年12月 1日 |
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