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平成23年 5月号 No.89
マクブ湯霜薄造り
これは沖縄で三大高級魚の一つとして知られているマクブの刺身。
これがマクブの姿である。
マクブとは正式には「シロクラベラ」と呼ばれるベラの仲間だ。
姿形はベラダイ亜目ベラ科の仲間らしく、ウロコの形状や色合いなど、見た目での共通点や特徴が出ているが、この他にもベラダイ亜目の仲間であることを特徴づけることがある。
下の写真がその特徴だ。
この写真は咽喉(ノド)歯と呼ばれるものを撮ったもの。
臓器のほぼ真ん中の位置にあるのがそれで、咽喉の背側と腹側にある歯である。
正確には「咽頭歯」と、難しく呼称しなければならないらしく、左の方は口側から見た写真で、
右のほうがひっくり返して胃袋側からである。
背面の歯を上咽頭歯、腹面の歯を下咽頭歯ということである。ノドにある歯なので、口の顎にある歯とは別物なのだが、機能としては基本的に同じようなもので、口に飲み込んだものをすり潰して食べる際にこの歯が活躍する。
ほとんどの魚は、大なり小なり咽頭歯状のものがあるようで、それは魚によって形も大きさも様々に異なっているようなのだが、特にベラダイ亜目の仲間はこの咽喉歯が発達している。
例えば下の写真はベラダイ亜目ブダイ科のブダイである。
そして下の写真はブダイの咽頭歯である。
平成18年7月号のイラブチー薄造りの時にとりあげた写真だが、ブダイの咽頭歯は「石のように・・・」という表現よりも、更に過激な表現で、まさに「鉄のように・・・」硬いギザギザの歯だ。
この咽頭歯をまともに包丁で叩いたら刃毀れを覚悟した方が良い。
ブダイをおろす時は、咽頭歯を上手に避けるのかコツなのだ。
上の右写真は、細い湾曲した右の部位が、湾曲した少し太めの左の部位に、食い込むように噛み合わされる。
しかも、右の部位は縦二つに分かれるようになっている。
そして、左の写真がちょうど上の臓器の裏側の部位にあたる。
鮮紅色の方円状の部位がエラで、その間が食道入り口の噴門部だ。
貝類など硬い食べ物がこの咽頭歯で噛み砕かれるようだ。写真では上部の白い骨が縦に割れている部位があるが、これが咽喉歯の裏側の出口の部分にあたり、ここから噛み砕かれた食べ物が胃へと流れていき、固い不用な殻などは吐き出される仕組みのようである。
強烈な咽頭歯の存在はマクブ(シロクラベラ)という魚が、イラブチー(ブダイ)とは兄弟姉妹関係にあり、よく似た魚であることを示しているが、これらを味わってみると、まったく別の魚であるのも分かる。
イラブチーは生で食べると少し臭みがあるが、マクブはそれがない。
まったくクセがないと言っても良いほどで、三枚におろした白身は非常に上品でクセのない味なのだ。
上品な味ではあるけれども、チョット物足りない面も否めず、刺身では少し一工夫した方が美味しく食べられる。
その一つが巻頭の刺身写真の湯霜という方法である。
上の写真は巻頭写真用に皮付きの半身を湯霜にしたもので、下のは香ばしい風味を増すための「焼霜」という方法だ。
そして「焼霜」の身を使ったマクブ薄造りは下のようになる。
湯霜と焼霜、どちらが好みなのか、評価は分れるところだろう。
湯霜も焼霜も、いわゆる「皮霜」という技法に包括されるが、「皮霜」にしたマクブとイラブチーの刺身を比べると、皮の厚さが違う感じで、マクブの方が薄く上品であり、その点イラブチーはどうしても粗野な感じが否めない。
マクブは湯霜でも焼霜にしても品良くまとまる。
だからマクブはイラブチーより高級な位置づけなのだろう。
脂ギトギトの養殖魚全盛の時代に、天然のマクブのような脂質とは縁遠い魚を、素材そのものの味として食するからこそ、高級な「贅沢」になるのかもしれない。
更新日時 平成23年 5月 1日 |
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